『大正學生愛妻家』6歳年上の「ねえや」を一途に思う「坊ちゃん」にときめく! 身分差&歳の差ありの大正純愛ストーリーがヒットの予感【書評】

マンガ

PR 公開日:2025/10/7

大正學生愛妻家
大正學生愛妻家(粥川すず/講談社)

『わたしの幸せな結婚』、『波うららかに、めおと日和』など明治~昭和初期を舞台にしたラブストーリーのヒットが続いています。顔も知らない相手との結婚、妻は夫を立てるもの……今とは違う価値観が当たり前だった時代。そんな背景の中でもお互いを尊重し、想い合うふたりを描いているのがヒット作の共通点のように思います。

 そんな作品たちの中で今一番注目なのが『大正學生愛妻家』(粥川すず/講談社)です。大正時代を舞台にねえやとお坊ちゃんという関係だったふたりがとあるきっかけで結婚。身分差あり、歳の差ありの夫婦となる物語です。

 大正10年東京、士家である橘家に勤める女中・ふきは24歳。19歳の時に嫁に行くはずでしたが直前に父が急死。父の借金を肩代わりすることになり、縁談は破談になってしまいます。そんなある日、本家の養子になり北海道で暮らしていた橘家の次男・勇吾が進学のため帰省。正式に跡取りとなったため妻を探しているという勇吾ですが、その妻に突然ふきを指名します。

大正學生愛妻家
大正學生愛妻家
大正學生愛妻家
大正學生愛妻家

突然のことにとまどうふきですが、勇吾の押しに根負け。あれよあれよという間に祝言も終了し、あたらしい家でふたりの生活はスタートします

初夜に慌てる、呼び方ひとつにドギマギ…大正ものならではの魅力盛りだくさん

 大正時代は今よりも特に女性の貞操観念が強い時代。ふきも縁談はあったものの男性経験は乏しいようで、式を挙げた日の夜は初夜のことを考えて突然挙動不審になってしまいます。勇吾から呼び名を「あなた」にしてと言われた時も、恥ずかしくて呼べず赤面。そんな現代が舞台だったらなかなか描けない初々しい夫婦をみることができるのが大正ものの魅力です。

 特にふきと勇吾の場合は、かつて女中と世話をしていた子どもという関係。昔は添い寝していたくらいの小さな子どもだった勇吾が、再会したら驚くほどの美青年になって自分に好意を向けてくる……。そんなとまどいもまざったふきの行動がかわいらしすぎて、みているとこちらの心もきゅんきゅん。ふたりの純愛に心が洗われるような気持ちになります。

年下なのにちょっとS? 強引な坊ちゃんのギャップにときめく

 実は一緒に暮らしていた頃からふきへの想いを募らせていた勇吾。実家に戻って、ふきがまだ働いていることを知るや否やすぐに求婚するほどの行動力を持ちます。6歳年下ながらも一家の主人としてイニシアチブを取るのは勇吾の方。ふきの初々しい行動にも「かわいいなぁねえやは」と余裕のある笑みを浮かべるなど、まだ18歳とは思えない包容力が魅力です。

大正學生愛妻家
大正學生愛妻家

 しかし一緒に買い物に出た時に周囲から“若さまと女中”と勘違いされると「自分の貫禄がないから夫婦にみえない」と浮かない顔に。ふきはこの件に関してまったく気に留めていなかったのに、しばらく経ったのちに通りすがりの人から「いいご夫婦」と言われた時は「聞いたか今の!」と相好を崩して喜びます。そんな時折みせる子どもっぽいところもギャップがあってかわいい。しかもそれがふきに関する時にだけ出てくるのがさらにかわいい! 読み進めるごとに勇吾の魅力にハマっていきます。

 最新3巻ではふきが助けた外国の少女が勇吾の学校の先生の孫だったことが判明。勇吾は英語が話せるふきを尊敬すると同時に「ふきのこと知らないことだらけなのかも」とさらに愛を深めます。

 特装版には完全描き下ろし漫画「うでずもう」と単行本未収録の番外編「手相鑑定」、さらにカラーイラストや連載前ネームなどを収録した豪華32ページの小冊子も。どちらの漫画もふきと勇吾らしい、お互いへの愛が詰まった可愛らしいエピソードです。

 また通常版と特装版では書影にも違いが。背表紙は通常版が勇吾、特装版がふきのイラスト、特装版の表紙イラストはふちなしとなっています。頬を赤らめるふき版背表紙のかわいらしさは悶絶級。ぜひご自身の目で確かめてみてください。

文=原智香

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