35歳独身彼氏ナシでも価値は下がらない!卵を産まない女性たちと少女が見つける自分らしい生き方【書評】
公開日:2025/10/29

『Untitled Flowers ~卵を産まないわたしたち~1』(ISAKA/KADOKAWA)は、何者でもない自分のまま、自分らしく生きることを応援してくれる作品だ。読めばきっと“自分らしい幸せの形”に向き合ってみたくなるに違いない。
不妊の診断を受け、結婚や出産の道を歩まず生きる35歳の美和は、同居人のトランスジェンダー女性・茜とふたり暮らしをしていた。ある日のこと、美和は若くして亡くなったいとこの葬儀に出席する。そこで目の当たりにしたのは、母親を亡くした少女・杏と、彼女を誰が引き取るかで揉める親族たちの姿だった。美和は杏を自分たちの家に迎え入れることに決め、新たに3人の同居生活が始まる。
美和と茜は、互いにままならない身体を抱えて生きており、結婚して子どもを産み家庭を築くという人生を、諦めざるを得なかった。しかし、杏との出会いによって思いがけず、同じ屋根の下で誰かと共に過ごし、「ただいま」や「おかえり」を言い合える繋がりの温かさに触れることになる。それぞれに痛みや傷を抱えた3人の関係は、切なくも温かい。
また、美和と茜と過ごすうちに、杏が少しずつ心を開いていく様子も見どころだ。登場人物それぞれの心情を描き出す繊細な筆致が、随所で光っている。
本作を読んでいると、「自分が自分として、自分らしく生きているだけで、その人生には十分価値があるのだ」と励まされているような気持ちになる。中でも印象深いのは、見切り品の商品に自分を重ねた美和に対して茜が言い放った、「35歳・独身・彼氏ナシだろうがなんだろーが 私たちの価値は一切下がらない」という言葉だ。
私たちひとりひとりの価値は、相対的な評価では決まらない。自分の人生を全力で生きるという姿勢こそ美しい。そんな強いメッセージを、ぜひ本作を通して受け取ってほしい。自分の心にぴたりとはまる“幸せ”の形はどんなものなのかを、他でもない自分自身の軸で考えるきっかけになるはずだ。
