事故で番ってしまったオメガバースBL。「運命の番」を信じる後天性オメガと、百戦錬磨のアルファの恋愛とは【書評】

マンガ

公開日:2025/10/10

 つが恋〜後天性Ωの運命〜
つが恋〜後天性Ωの運命〜(千桜都マルミ/白泉社)

 容姿端麗でロマンチストなα(アルファ)の青年、一ノ瀬絢斗。彼の夢は、運命のΩ(オメガ)と巡り会い、その人に“初めて”を捧げること(ゆえに童貞)。しかし、なんの因果か彼が結ばれてしまったのは、屈指の遊び人の大取だった……。

 マンガParkで好評連載中のおススメBL『つが恋〜後天性Ωの運命〜』(千桜都マルミ/白泉社)は、オメガバースという独自の世界観を舞台にした物語。まず、本作を語るうえで欠かせない「オメガバース」について、ざっと説明したいと思う。

「オメガバース」とは人間をα(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)の3つの性に分類する架空のジェンダー概念のこと。なかでもαは社会的に強い立場を与えられ、βはいわゆる普通人。そしてΩは多くの場合、男女を問わず妊孕性やヒートと呼ばれる発情期を持ち、特定のαとの間に「番(つがい)」という運命的な絆を築くことも。

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 ドラマチックな出会いや、支配・従属関係を組み込みやすいので、人気のある設定だ。それを踏まえたうえで本作を紹介していこう。

 絢斗は、自分の両親が「運命の番」同士であることの影響も多分に受けて、誰よりも「番」の絆を信じているα。対するもうひとりの主役、大取楓は、大学内で乱交をするほどの“ヤリチン帝王”。αの特性を存分に生かして入れ食いライフを満喫している。

 同じαでも対照的なこの2人が、番になってしまうというストーリーだ。

 ふしぎなことに絢斗は、大取のフェロモンを吸い込んだ瞬間に、Ω症状があらわれてしまう。そして大取もまた発情した絢斗に欲情する。

 2人が衝動の赴くままに身体を重ねる場面は、なんとも煽情的だ。自らのヒートに戸惑い、怯える絢斗を優しく、そして烈しくむさぼる大取。発情によって燃えあがる、αとΩならではの切迫感に充ちた性交シーン(絵柄がかわいらしいだけに、いっそう艶な雰囲気がある)。

 その後、検査の結果、絢斗は「後天性オメガ」であることが判明。しかも大取と愛し合っている最中に、彼と番ってしまっていた! 長年夢見ていた運命の相手が、自分の理想から最も遠いキャラクターの大取であることに、絢斗はショックを受ける。

 一方で大取もまた、絢斗と番ったことで変わってゆく。

 筋金入りの快楽主義者であったはずが、絢斗によって初めて“本当の愛”を意識する。なんとかそれを伝えようとするものの、なにしろ今までが今までだったので、なかなか絢斗に分かってもらえない。ひそかに焦る大取の様子はかなり……ぐっとくる。

 恋愛未経験の絢斗と、百戦錬磨(だったはず)の大取。絢斗は無自覚に大取を翻弄し、大取は手練手管を駆使しつつ、懸命に絢斗の心を掴もうとする。そんな2人の姿が、なんとも微笑ましくも心地いい。

 また、バース性を重視せず絢斗に想いをぶつけてくるαの怜央も絡んできて、今後は三角関係の様相も呈してきそうだ。

 やがて自分が徐々に大取に惹かれていくのは、番ってしまったからか。それとも本当に恋しはじめているからか。惑う絢斗をとおして、読む側である私たちも「恋」について考えてしまう。人が人を好きになるのは運命なのか? それとも自分自身の意志なのか? と。

 オメガバースというジャンルならではの宿命的なテーマが分かりやすく、かつ掘り込んで描かれている。

文=皆川ちか

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