自身の家族をモチーフに紡いだ初長編作品で第78回カンヌ国際映画祭「監督週間」に選出 『見はらし世代』監督・団塚唯我インタビュー

公開日:2025/10/24

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年11月号からの転載です。

 自身の家族をモデルに、ある家族の風景と都市の変遷を重ねた野心作で、長編監督デビュー。

「オリジナル脚本の題材をどうするか考えていたとき、自分のなかにある家族観への違和感と、変わりゆく東京への違和感がオーバーラップする瞬間があって。家族の物語を軸に、再開発などのモチーフを取り入れようと考えました。そして物語的には枝葉的なエピソードですけど、蓮のバイト先や父親の会社のことも描こうと。職場をどう捉えるかは、現代劇の重要なモチーフだと思うので。ただ、それぞれのバランスには苦労しましたね」

advertisement

 疎遠状態だった家族や再開発の問題はシリアスながら、要所に顔をみせるユーモアや終盤のサプライズ展開が鮮やか。

「社会問題も扱っていますし、テーマ的には重苦しさを伴います。けれどそれを軽やかに描こうというのは、企画段階からプロデューサーとも話していたことです。足取りが軽くなる映画にしたくて、たとえば父親と台湾人の部下との会話や、蓮のバイト仲間のキャラクターに軽妙さを纏わせたり。蓮の家族の事情も、ランドスケープデザイナーという父親の仕事もちょっと特殊ですよね。物語の渦中の人間だけじゃなく、その外側の人たちに少しずつフォーカスを当てていくことは、普遍性を高めるという意味でも、この映画にとって大切だと思いました」

映画初主演となる黒崎煌代が、監督の分身的な蓮を好演。

「自分がいま最も撮りたい人が黒崎くん。蓮が父親に向かって声を荒げる演技は、脚本にも演出にもない彼のなかから立ち上がってきたもので、彼にしかできない芝居だったと思います」

カンヌ国際映画祭「監督週間」に日本人監督史上、最年少選出。

「思いがけず初プレミアはカンヌで。でも自分としては日本、とくに東京で暮らす人たちがいちばん面白いと思える映画にしたいと、意識して創った作品です」

だんづか・ゆいが●1998年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学環境情報学部中退。映画美学校修了。在学中は万田邦敏や脚本家・宇治田隆史より教えを受ける。同校修了作品として制作した『愛をたむけるよ』が、なら国際映画祭、札幌国際短編映画祭などで入選、受賞。同じく脚本・監督を務めた短編『遠くへいきたいわ』を経て、『見はらし世代』で長編監督デビュー。

取材・文:柴田メグミ 写真:鈴木慶子

見はらし世代
監督:団塚唯我 出演:黒崎煌代、遠藤憲一、井川 遥、木竜麻生、菊池亜希子 2025年日本 115分 配給:シグロ Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開中●再開発が進む渋谷で、胡蝶蘭の配送ドライバーとして働く蓮。ある日、配達中に父と数年ぶりに再会する。新生活の準備を進めていた姉は蓮の話に無関心を装うが、蓮はもう一度、家族の距離を測り直そうとする……。