頭上に浮かんだ“3”の数字の意味は? 絶望の世界で見つけた、たったひとつの希望【漫画家インタビュー】
公開日:2025/10/20

終末世界を舞台に、主人公の葛藤と小さな希望を描いた4コマ漫画『俺だけが知る希望』。
ある朝、主人公が目を覚ますと、周りの人々の頭の上に「3」という数字がぽんっと浮かんでいた。意味が分からず首を傾げていたところ、テレビのニュースで3日後に巨大隕石が地球に衝突するとの報道があり、さらに大混乱。
「ああ、死ぬまでの日数だったのか。なんて意味のないタイミングで発動したんだよ、この能力……」。がっくりと肩を落とす主人公だったが、ふと周囲を見渡すと、ひとりだけ「3」ではない数字を持つ人がいて……。
世界の終わりと小さな希望を対比させる構図が印象的な本作は、X(旧Twitter)を中心に人気が高まっており、5万以上のいいねが集まる投稿も。
本作をはじめ、ファンタジーと日常の境目を描く作品を多く投稿している作者・ゴードン松坂(@period_apos)さんに、創作のきっかけやこだわりについて語ってもらった。
描きたかったのは、自分の死を悟っても他人に勇気を与えられる強い精神
ーー『俺だけが知る希望』を描こうと思ったきっかけや理由を教えてください。
「周りの人の頭の上に数字が見えるようになった話」は割とメジャーなネタなので、私もそこから何か面白いものを描けたらと思って考え始めたら、このオチを思い付きました。
この題材の面白みのひとつは、ひとりだけ数字が桁違いな人間がいると話が広がる点だと思います。本作はそこに着目し、大きな数字に意味を持たせる設定にしました。一生味が続くガムのように長く楽しめる題材なので、今後も別のオチを思い付いたら描こうと思います。
ーーこだわった点や、「ここを見てほしい」というポイントはどこですか。
「周りの人の頭の上に数字が見えるようになる」という題材を扱った漫画では、いつも主人公(数字が見えるようになった人物)のキャラクターデザインを「中性的な青年」に統一しています。これはほとんど手癖で描いているキャラクターデザインで、主にキャラクターの性別に意図を持たせないときに使用しています。
また、主人公の服の柄には、当時描くのにハマっていた「ミツアシブラキオサウルス」を採用しました。人気が出たらグッズにしたいと思っていたのですが、あまり大きな反響は得られなかったため、最近は描いていません。
ーー1コマ目の「人の頭上に謎の数字が見える」というビジュアル表現が印象的でした。参考にした作品や着想のきっかけはありますか?
以前、有名な掲示板サイトの「意味がわかると怖い話」にある、「今の年齢が見えてる人かと思ったら寿命が見えてる人」のコピペをよく読んでいて、それが元ネタではないかと考えていました。ただ、ビジュアル面では、『DEATH NOTE』(大場つぐみ:原作、小畑健:作画/集英社)に登場する死神の目の能力の描写が最も近いようにも思います。
同じ題材で漫画を描いている方々も似たような表現を用いていることが多いため、知らず知らずのうちに、さまざまな作品から影響を受けているのかもしれません。
ーー身近な風景にファンタジー要素を取り入れた独自の作風に引き込まれます。こうしたユニークなアイデアはどのように生まれるのでしょうか?
現在、Xでの相互フォロワーに4コマを描く方が多くいらっしゃいます。その方々が取り上げた題材を見て、「自分ならこういうオチにするだろうな」といった別解のような発想からアイデアが生まれることもあれば、Xのタイムライン上で流れてくる、いわゆるネタツイを題材にして着想を得ることもあります。
また、基本的には、ある種のテンプレから話を展開させることが多いです。例えば「ウサギとカメ」を題材にする場合、「カメじゃなくて結局ウサギが勝った。理由は?」「カメが勝ったのになぜかウサギは嬉しそう。どうして?」といったように、誰もが知っている物語を少し改変してみると、ストーリーが思いつきやすいです。ある意味、一種の二次創作のようなものといえるかもしれません。
ーー4コマ漫画ならではの表現の魅力は、どのような点にあると思われますか?
常々思っているのですが、4コマとは「ファスト漫画」と呼べる存在なのではないかという持論があります。笑いを生んだり、感動を呼んだり、あるいは「う〜わ最悪〜!」といった感情を引き出したりと、たった4コマで人の感情を動かせる漫画が成立しているのです。もちろん1コマでも2コマでも物語は成り立ちますが、やはりこれほど4コマという形式が一般化しているのは、4コマこそが漫画としての面白さを最小単位で成立させるフォーマットだからだと考えています。
長く4コマを描き続けてきた中で、表現の技術も自然と4コマ寄りに洗練されてきていると感じます。その中でも最近身についた工夫のひとつが、「あまり明言しすぎない」という描き方です。「いやそれ○○かい!」とオチでツッコませるよりも、読者の「えっこれ○○じゃね?」という反応を自然に引き出させる描き方をした方が、読み手の「ツッコみたい!」という感情を湧き立たせるため、結果的に反応が良くなるのです。
逆に物語の中ですべてを言い切ってしまうと、読者自身がツッコむ余地がなくなり、反応が鈍くなってしまいます。こういった小さなテクニックを意識しながら、日々4コマを描いています。
ーー本作を通じて描きたいこと、伝えたいことはどんなことですか。
主人公のように、たとえ自分が死ぬと分かっていても、これからも生きることができる人に対し勇気を与えられる強い心を持って生きてください、と伝えたいです。
ーー今後の展望や目標を教えてください。
漫画制作だけで生活していきたいです。
ーー読者へメッセージをお願いします。
『俺だけが知る希望』と同じく、仲間を思いやる強い心を描いた物語『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(アンディ・ウィアー/早川書房)の面白さを伝えたいです。
2026年の3月に『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の映画公開が予定されています。ぜひ予告編などを目にする前に、原作小説を読んでいただきたいと思います。本当に面白く、ここ数年で読んだ本の中でも群を抜いて印象に残った一冊です。