結婚したくなくて脱走! 自由奔放な令嬢と、彼女のことが好きすぎる王子がだんだん距離を縮めていくラブコメディ『妃教育から逃げたい私』【書評】
公開日:2025/10/20

『妃教育から逃げたい私』(沢野いずみ:著、菅田うり:作画、夢咲ミル:キャラクター原案/主婦と生活社)は、キャラクターの恋路をときめきながら見守りたい人におすすめの作品だ。
次期国王にふさわしい存在となるために、幼いころから厳しい妃教育を受けてきた主人公のレティシア。楽しいことも自由もない毎日を過ごすうちに、彼女は婚約者の王子に興味を持てなくなってしまう。反対に、王子・クラークはレティシアのことが大好きだ。初めて出会った日から、10年間ふくらみ続けてきた愛情を、言葉と行動でレティシアに伝えていく。
恋愛感情に差があるふたりの日常から楽しめる笑いと胸キュン。それが本作の見どころだ。特に印象的だったのは、レティシアが壁尻になってしまうエピソードである。婚約を受け入れたくなくて、壁に空けた穴から逃げようとするレティシア。だが、体重が増えていたことでお腹がつっかえてしまう。
令嬢物の漫画で復讐相手になる王子であれば、ここで彼女をあざ笑い、読者の神経を逆なでしたかもしれない。しかしクラークは困惑しつつもレティシアを助けようとする。壁の向こう側にいる彼女に聞こえるように大きな声ではげまし、全力で引き抜こうとする姿は、高貴な身分にふさわしくない。だからこそクラークが、立場よりもレティシアを大切にしていることが伝わってくる。
また、恋愛耐性がないレティシアが、クラークからスキンシップを受けるシーンにも注目してほしい。鼻先が触れ合いそうな距離で惜しみなく褒めてくるクラークに、顔が真っ赤になってしまうレティシア。普段のおてんばな姿とのギャップが、きっとあなたの心もくすぐってくれるはずだ。
さらに本作は、主人公のまわりにいる人々の人生も丁寧に描かれている。ライバルや身の回りの世話をする侍女が、当て馬や優しい世界を演出するためだけの存在になっていないところが魅力的だ。そんな脇役たちの感情の変化にも注目して読んでほしい。