誰かに話したいけど誰にも話せない…記憶を失った父との生活を漫画にした理由【著者インタビュー】

マンガ

公開日:2025/10/31

 高校1年生のエミは、サラリーマンの父、専業主婦の母、中学2年生の妹と平穏に暮らしていた。しかしある日、父・ヒロシは脳にできた腫瘍が破裂した影響で、半身まひや失語症の障害を負ってしまう。さらに記憶能力が大幅に欠如し、家族の顔さえわからなくなってしまった。エミは突然の事態に戸惑いながらも回復を信じ、母親や妹とともに父親を支える日々を送っていくが、一緒に暮らすにつれて、徐々に厳しい現実を突きつけられ――。脳に障害を負った父親を支える家族の葛藤を描いた実話コミックエッセイ『家族を忘れた父親との23年間』(吉田いらこ/KADOKAWA)。

 子煩悩だったのにすっかり変わってしまった父との生活、そして今も抱えている後悔について著者の吉田いらこさんにお話を伺いました。

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※個人の体験、お話をもとにインタビューを行っています。初期症状など、詳細は医療機関等にご確認ください。

――脳腫瘍が破裂したお父様は、緊急手術後、リハビリ専門の病院に転院されています。その時に、お父様が踏切の前に何度も行ってしまうというエピソードがありました。読んでいて辛いエピソードで、お母様としては子どもに伝えないという選択肢もあったのかなと思うのですが……。当時のことを振り返っていかがですか?

吉田いらこさん(以下、吉田):これは私たち家族の中では笑い話なんですよ。「お父さんは本当に自由を求めているんだ」「不自由な体でどうやって踏切まで行ったんだろう」「お父さんらしいよね」って笑い合ったのを覚えています。

――素敵な家族ですね。お父様のことをお友達に話したら引かれてしまったというお話もありましたが、そのあとは誰にも話されなかったんですか?

吉田:友達には話していません。お付き合いした方にはそのたびに話していたんですが、引かれたり、微妙な空気になったり…。

――高校生、大学生くらいだとまだ若いから、どうしていいかわからなかったのかもしれませんね。

吉田:そうですね。それがこの漫画を描こうと思った理由でもあります。自分の中でずっと溜めていた気持ちを吐き出したいけど、リアルの知り合いだと相手に負担をかけてしまってダメ。でも誰かに話を聞いてもらいたい、と考えた時に漫画としてSNSに出すのがいいんじゃないかと思ったんです。

取材・文=原智香

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