脳腫瘍破裂がきっかけで記憶をなくした父が退院し、再び家族4人暮らしへ。父が繰り返す「帰りたい」場所とは……【著者インタビュー】

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公開日:2025/11/2

 高校1年生のエミは、サラリーマンの父、専業主婦の母、中学2年生の妹と平穏に暮らしていた。しかしある日、父・ヒロシは脳にできた腫瘍が破裂した影響で、半身まひや失語症の障害を負ってしまう。さらに記憶能力が大幅に欠如し、家族の顔さえわからなくなってしまった。エミは突然の事態に戸惑いながらも回復を信じ、母親や妹とともに父親を支える日々を送っていくが、一緒に暮らすにつれて、徐々に厳しい現実を突きつけられ――。脳に障害を負った父親を支える家族の葛藤を描いた実話コミックエッセイ『家族を忘れた父親との23年間』(吉田いらこ/KADOKAWA)。

 子煩悩だったのにすっかり変わってしまった父との生活、そして今も抱えている後悔について著者の吉田いらこさんにお話を伺いました。

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※個人の体験、お話をもとにインタビューを行っています。初期症状など、詳細は医療機関等にご確認ください。

――最初の入院から1年後、お父様が退院されて4人での暮らしが再び始まります。その前に母娘3人で外食に行くシーンがありますが、お父様を受け入れるにあたって話し合われたり、ルールを決めたりはされましたか?

吉田いらこさん(以下、吉田):いや、なかったと思います。そういうことも本当に母に任せてしまって、私と妹は普通の生活を送ろうとしていました。

――記憶が継続できず、何度もコーヒーのお代わりを求めるお父様に対して、吉田さんと妹さんでは対応が違ったと描かれています。もともとお二人の性格が違うのでしょうか?

吉田:そうですね。妹はもともとはっきりと物事を言う性格なんです。だから「コーヒーはさっき飲んだでしょ」と言ったり、元気だった時の父に対して言うことをそのまま言ったりしていました。私はどうせまた忘れてしまうのだから「待っててね」と流してしまう方で。その方が認知症の患者さんには有効だ、という話もあるのですが、対等に話している妹の方がちゃんと向き合っていて偉いなと思っていました。

――コーヒーの他にもお父様が繰り返している言葉はありましたか?

吉田:「帰りたい帰りたい」って泣いていましたね。「どこに帰りたいの?」と聞いても具体的には出てこないのですが、母が詳しく聞いたことによると、どうも子どもの頃住んでいた家のことを言っているのかな、と。もうその場所はないんですけどね。母は余裕がある時は聞き流していましたが、怒っている時もありました。「帰る場所なんてないでしょ、あなたの家はここでしょ」って。

取材・文=原智香

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