コーヒーを10分ごとに欲しがり、家を出たがる父。その時、母が下した決断とは【著者インタビュー】

マンガ

公開日:2025/11/3

 高校1年生のエミは、サラリーマンの父、専業主婦の母、中学2年生の妹と平穏に暮らしていた。しかしある日、父・ヒロシは脳にできた腫瘍が破裂した影響で、半身まひや失語症の障害を負ってしまう。さらに記憶能力が大幅に欠如し、家族の顔さえわからなくなってしまった。エミは突然の事態に戸惑いながらも回復を信じ、母親や妹とともに父親を支える日々を送っていくが、一緒に暮らすにつれて、徐々に厳しい現実を突きつけられ――。脳に障害を負った父親を支える家族の葛藤を描いた実話コミックエッセイ『家族を忘れた父親との23年間』(吉田いらこ/KADOKAWA)。

 子煩悩だったのにすっかり変わってしまった父との生活、そして今も抱えている後悔について著者の吉田いらこさんにお話を伺いました。

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※個人の体験、お話をもとにインタビューを行っています。初期症状など、詳細は医療機関等にご確認ください。

――お父様におとなしくなる薬を飲んでもらうというエピソードがあります。具体的にはどんな薬だったんでしょうか?

吉田いらこさん(以下、吉田):具体的な名前はわかりません。母が父の症状を説明して処方してもらったもので、定期的に飲んでいました。一度薬の効きが悪くなったのか、少し強めにしてもらったりもしていました。動けなくなるわけではないのですが、動きたいという気持ちがなくなってくるというか。「帰りたい」ということもなくなったし、声を荒らげたりもしなくなりました。

――作中ではお父様に薬を飲ませることへの複雑な思いも綴られていました。もしも今、配偶者の方がお父様と同じような症状になったとして、吉田さんご自身はその方に薬を飲ませると思いますか?

吉田:絶対に飲ませると思います。今でも父への複雑な思いはありますが、そういう薬がないと、介護する側の身が持たなくなってしまうので。

――そもそも、お父様を在宅にせず、施設などに預けるという選択肢は当時あったのでしょうか?

吉田:あったのかもしれませんが、少なくとも私には思いつきませんでした。高齢者施設には年齢的に受け入れてもらえませんし、当時はソーシャルワーカーさんもいませんでしたし。患者側から相談しない限りは病院からのアドバイスもなかったと思います。当時から23年経って、本人や介護者へのケアはかなり進みましたよね。

取材・文=原智香

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