記憶を失った配偶者の介護……辛い生活を乗り切った母のモチベーションはどこにあった?【著者インタビュー】

マンガ

公開日:2025/11/4

 高校1年生のエミは、サラリーマンの父、専業主婦の母、中学2年生の妹と平穏に暮らしていた。しかしある日、父・ヒロシは脳にできた腫瘍が破裂した影響で、半身まひや失語症の障害を負ってしまう。さらに記憶能力が大幅に欠如し、家族の顔さえわからなくなってしまった。エミは突然の事態に戸惑いながらも回復を信じ、母親や妹とともに父親を支える日々を送っていくが、一緒に暮らすにつれて、徐々に厳しい現実を突きつけられ――。脳に障害を負った父親を支える家族の葛藤を描いた実話コミックエッセイ『家族を忘れた父親との23年間』(吉田いらこ/KADOKAWA)。

 子煩悩だったのにすっかり変わってしまった父との生活、そして今も抱えている後悔について著者の吉田いらこさんにお話を伺いました。

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※個人の体験、お話をもとにインタビューを行っています。初期症状など、詳細は医療機関等にご確認ください。

――大学入学後、帰りが遅くなってもお母様はいつも起きていて、吉田さんのお話を聞いてくれたとエピソードにありました。お母様がご自身のお話をされることもあったのでしょうか?

吉田いらこさん(以下、吉田):あまりなくて、私の話をずっと聞いてくれるだけでした。私も母の話を聞くというのを思いつきもしなくて。自分のことしか考えていなかったんです。

――私も大学生の頃はそうでした。今はお母様と当時のことを振り返って話されたりしているのでしょうか?

吉田:今は話します。でも「ショートステイとかも利用していたし、大変じゃなかったよ」という感じで笑っています。もともとすごく耐え忍ぶ性格で、家族の世話を焼くのが好きなタイプではあったんです。それにウクレレを習っていたのですが、そこでいろいろな世代の人とお話ししていたようです。家じゃない場所に居場所があったのは良かったんだと思います。

――なるほど。とはいえ大変なこともあったと思うのですが、それをやり遂げられたモチベーションはなんだったのでしょうか?

吉田:それは母が何度も言っていたのですが「長男の嫁になった」という強い思いがあるらしくて。父が病気になった時、実家からは「離婚して戻っておいで」と言われていたらしいんです。でもそれは絶対しない。私は長男の嫁で、一生添い遂げると決めたから、と。「長男の嫁だからやらなくちゃ」とよく言っていました。

取材・文=原智香

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