親が自分のことを忘れてしまう…同じ体験をした人に著者が伝えたいことは【著者インタビュー】
公開日:2025/11/6

高校1年生のエミは、サラリーマンの父、専業主婦の母、中学2年生の妹と平穏に暮らしていた。しかしある日、父・ヒロシは脳にできた腫瘍が破裂した影響で、半身まひや失語症の障害を負ってしまう。さらに記憶能力が大幅に欠如し、家族の顔さえわからなくなってしまった。エミは突然の事態に戸惑いながらも回復を信じ、母親や妹とともに父親を支える日々を送っていくが、一緒に暮らすにつれて、徐々に厳しい現実を突きつけられ――。脳に障害を負った父親を支える家族の葛藤を描いた実話コミックエッセイ『家族を忘れた父親との23年間』(吉田いらこ/KADOKAWA)。
子煩悩だったのにすっかり変わってしまった父との生活、そして今も抱えている後悔について著者の吉田いらこさんにお話を伺いました。
※個人の体験、お話をもとにインタビューを行っています。初期症状など、詳細は医療機関等にご確認ください。
――23年間の間で、過去に戻れるとしたらいつに戻ってどんなことがしたいですか?
吉田いらこさん(以下、吉田):もし一番最初に戻っていいなら、やはり「すぐ病院に行って」って父に言いたいですね。腫瘍が破裂する前に手術が成功していれば、そのまま普通の生活を送れていたかもしれませんから。発症後だとしたら、ちゃんと母に寄り添っていきたいです。何でも自分で受け止めてため込んでしまう母を、もう少し何とかできたらよかったなと思います。
――なるほど。ただ一方で最近よく言われているヤングケアラーの問題もありますよね。お子さんたちにお父様のことを気にせず自由に生活してもらいたいというのがお母様の望みで、それは叶ったのかなと読み手としては思ったのですが。
吉田:そうですね、それは確かにそうなのかなと思います。ただそれでも、何かできたんじゃないかなと思ってしまうんです。
――そうなんですね。同じように子どもの立場で、親が認知症であったり、記憶を失ってしまったりという体験をされている方にはどんな声をかけたいですか?
吉田:「辛いね、辛かったね、しんどいね」ですかね。あと同じような経験をされている方とリアルでもネットでもどちらでもいいので繋がって、気持ちを吐き出せる場所を持ってほしいなと思います。私自身この漫画を最初SNSで発表したのですが、同じような境遇ですという方からDM(ダイレクトメッセージ)をいただいて。あまりにも同じ気持ちになってくれていて泣きそうになったんです。当時から何十年経った時ですが、ポップに「辛いよね」と共感してくれる相手がいることですごく心が軽くなりました。そういう共感できる相手や場を見つけてほしいです。
取材・文=原智香
