ツインテ美少女の急接近に脳内はオーバーヒート! 思春期ならではの溢れ出す感情に、読み手も叫びたくなるラブコメ『やめろ好きになってしまう』【書評】
PR 公開日:2025/11/19

話しかけてくる。優しくしてくる。好きなものが同じ……。もしそんな人が身近にいたとしたらほぼ確実に脳内でこう叫ぶだろう。
「好きになってしまう!」
いや、なってもいいはずだ。好意を抱くのは自由だし、特に思春期だったら自然な反応だ。けれど、そんな思考を「単純すぎる」と認識し、抗い、葛藤するのもまた思春期だろう。そんな感情と理性のぶつかり合いをタイトルにしたラブコメディが『やめろ好きになってしまう』(もりぐちあきら/集英社)である。
考えすぎが止まらない男子高校生・松浦吾妻(まつうらあずま)に、突然、隣のクラスの美少女・厳木紗代(きゅうらぎさよ)が積極的にアプローチしてくるようになる。彼にはその理由が思い当たらず、彼女の真意も理解できない。これは恋の始まりか、それとも罠か。
猛アプローチに脳が追いつかない!
高校1年生の松浦は、相手の本性を容易に見透かせると勝手に自負していた。そんな松浦が、同じ委員会ということで隣のクラスの厳木に教室の片付けを手伝わされたところから物語は動き出す。
ツインテールがチャームポイントの美少女・厳木から、軽いボディタッチや優しい笑顔、そして「ありがとう」とお菓子の手渡しと、あざとくも見える急接近を受け、松浦は平静さを装ってはいるものの内心で動揺しまくる。しかし彼は帰宅部でかなり地味な高校生活を送っており、ほとんど会話したこともなかった美少女が分かりやすくアプローチしてきても「そんなバカな」と自分にツッコむことしかできない。
しかし一緒に片付けをした日以降、厳木は更に追撃をかけてくる。廊下で会うと挨拶してくるようになり、松浦の下校時には息を切らして追いかけてくる。そして連絡先の交換を求められ、すぐに厳木から「なんか話したい」といきなり電話がかかってくる。松浦の脳内はそのたびに大騒ぎだ。
「好きになってしまう」には理由がほしい
本作の絵柄はシンプルで、松浦の脳内以外ではドタバタとした出来事が起こるわけでもなく、一見すると控えめな雰囲気だ。しかし不思議な迫力がある。それはきっと、上手にからかうタイプではない厳木にリアルなぎこちなさがあり、嬉しそうに松浦に絡んではいるものの、どこか緊張感をまとっているからだろう。
第2巻まで読むと、厳木の松浦への好意は「ほぼ確」だと思う。しかし松浦は「好きになってしまう」ことを恐れて警戒を解かない。彼は地味でモテ要素ゼロだし、他人の本性を見透かせるはずが厳木の気持ちが全く読めないため、彼女が自分に接近してきた理由を見出すことができない。厳木の真意は読み手の私たちも分からない。だからそれがはっきりした後のふたりの関係がどうなるのか楽しみで仕方がない。
だがその一方で、恋が叶う(叶いそう)な一歩手前もラブストーリーの醍醐味なので、今のくすぐったい空気感をもっと味わっていたくもなる。松浦に感情移入し、彼と同様に思考がごちゃごちゃになることは確実だ。
とにかく、ページをめくるたびに頬がゆるみニヤニヤが止まらなくなるので、人前で読む時はくれぐれもご注意いただきたい。
文=古林恭

