距離感がバグった無邪気な従妹に翻弄される! 夏休みの田舎を舞台に、あの頃の記憶が蘇るカントリーラブコメ『いとこのこ』【書評】
公開日:2025/10/29

『いとこのこ』(いぬちく/KADOKAWA)は、思春期ならではのピュアでもどかしい「いとこ同士の恋」を描いたラブコメだ。
父親の奔放な行動をきっかけに、夏休み中は叔父の家で過ごすことになった中学2年生の望(のぞむ)は、そこで年下の従妹・爽(さわ)と過ごすことになる。褐色の肌に輝く笑顔、麦わら帽子とタンクトップがよく似合う彼女に振り回される望の夏休みは、思春期特有の「近すぎる距離」と「まだ名前をつけられない感情」で満ちていく。
最初のうちは無邪気にじゃれつく妹のようだった爽だが、無意識なのかわざとなのか、距離感がバグった誘うような仕草にドキッとして翻弄されっぱなしに。飛びついてきたり、思わせぶりな言葉でからかったり、時には「うちのこと好きだよね?」と上目遣いで聞いてきたりと、大胆な言動の裏にはまだ自覚していない恋心が垣間見える。対する望もまた、優しくて精神年齢の高い無自覚な「たらし」であり、ふとした一言で爽をドキッとさせ、読んでいるこちらまで照れてしまう。
本作のもうひとつの魅力は、舞台となる田舎の空気。蝉の声、夕暮れの道、駄菓子屋や夏祭りなど、いわゆる「田舎の夏といえば」のエピソードや描写が非常に心地いい。そして時折登場する親戚たちや地元の人々も物語にちょうどいいアクセントを加えている。
最新刊では、望が自分の気持ちを意識しはじめ、ぎこちなくなる姿が印象的だ。これまでの無邪気な関係が少しずつ変化していき、お互いに意識せずにはいられなくなる。その気持ちに戸惑いながらも心の距離がほんの少しだけ近づく瞬間は思わず息を飲んでしまった。
懐かしさを感じる田舎を舞台に、眩しくて少し切ない思春期ならではの心情を描いた本作。誰もがあの頃に抱いていた憧れや甘ずっぱい思い出が蘇ってくるだろう。
