聡明な財閥未亡人がさまざまな事件を金と権力で豪快に解決! 上流社会ならではの華やかさと闇が描かれた人気シリーズ『マダム・ジョーカー』【書評】
公開日:2025/11/7

華やかな容姿と豊かな経済力、そして自分の信念を貫く強さを備えた女性・月光寺蘭子。彼女が主人公の『マダム・ジョーカー』(名香智子/双葉社)では、財閥の未亡人として上流社会に生きる蘭子の日常が描かれる。
上流階級の世界は何とも複雑だ。一見すると華やかで優雅だが、その裏側では常に複雑な人間関係が渦巻いている。莫大な財産や名誉を持つ人間ほど周囲からの嫉妬にさらされやすく、それが時には大きなトラブルや事件にまで発展することも。もちろん、蘭子の生きる世界も例外ではない。彼女のもとには今日もまた、思いもよらぬ出来事が舞い込む。
本作の魅力は、何といっても蘭子の唯一無二のキャラクター性である。華やかで美しい財閥未亡人でありながら、他人と競わず、悪意にも動じない大らかさを持つ彼女は、周囲から敵対心を向けられても全く動じない。むしろその品格と余裕で相手を圧倒してしまう。いつ何時も毅然と我が道を行く生き方は何とも痛快だ。「こんな女性になりたい」と憧れる読者が多いのも頷ける。
一方で、現代社会を生きる人間の葛藤が丹念に描かれている点も見どころだ。本作は1話完結で展開されるが、その中には性別や容姿、身分、経済格差といった社会に潜むさまざまな差別問題や闇が巧みに織り込まれており、蘭子のようにしなやかに自分を貫いて生きることは多くの人にとって決して容易なことではない。心の痛みや欠陥を抱える登場人物たちは、時に他者とぶつかりながらも自分なりの答えを探していく。もがき、悩み、それでも前に進もうとする彼らの姿に勇気づけられる人も多いことだろう。
さらに、蘭子に関わる登場人物たちもまた個性があり魅力的だ。2025年10月時点で最新の第30巻では、蘭子の子どもたちの日常や恋愛模様を描いた短編も収録されており、親子それぞれの視点から物語の深みを味わえる。また、第30巻到達を記念した特別企画で「教えて名香先生!30問30答」も収録し、本作の魅力をあらためてじっくりと楽しむことができる。
