バイトの巫女さんは夢枕に立つ生霊にそっくり?キュンとオカルトが交錯する奇想天外ラブコメディ【書評】

マンガ

公開日:2025/11/10

 生霊(いきりょう)という言葉を耳にしたことがあるだろうか。これは、まだ生きている人の強い感情や念が、無意識のうちに自らの身体から抜け出し、他者に影響を及ぼすとされる現象を指す。死後の霊とは異なり、「生きながらにして霊となる」という特異性を持つ生霊は、人間の心や精神の力を象徴する存在として語り継がれてきた。

みだりに憑かせてはなりません』(栗田あぐり/KADOKAWA)は、そんな生霊現象をきっかけに始まる恋愛模様を描いた、異色のラブコメディである。

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 主人公・須加原保は、イエスマンとして働き続けた末、心身のバランスを崩して療養中の27歳。現在は実家の神社に身を寄せている。そんなある日、就寝中に金縛りにあった保の前に現れたのは、正体不明の女の霊だった。毎晩、金縛りとともに現れる彼女に、恐怖と困惑を覚える保。

 そんな折、神社の巫女バイトの面接に、霊に瓜二つの女子大生・柊真琴がやってくる。話を聞くと、なんと彼女自身にも“霊としての記憶”があるという驚きの事実が判明。途方に暮れるふたりは、なんとかこの不可思議な状況を解決しようと、インターネットで調べた「生霊の消し方」に挑戦するが、その方法は想像以上に大胆かつ赤面必至なもので――!

 本作の見どころは、オカルト要素とラブコメ要素が絶妙に融合した独特の世界観にある。生霊という超常現象を軸に据えながらも、その中で描かれるのは、人間関係の機微や恋愛の駆け引きといった、きわめて俗的な事柄だ。

 何といっても、まず状況がユニーク。顔も名前も知っている相手が毎夜のように夢枕に立つなんて、しかもそれが年若い異性だなんて、想像するだけで背筋が寒くなる。普通ならホラー一直線になりそうなものだが、必死で現状打破を図るふたりのやり取りは、傍から見れば何ともコミカルで、読者を引き込むユーモアに満ちている。オカルト好きにもラブコメ好きにもぜひ手に取ってほしい物語だ。

文=ネゴト / 糸野旬

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