37歳は好きな服を着ちゃダメですか?同期から“オバ見え”扱いされた、お気に入りコーデ…【書評】
公開日:2025/11/14

多様性が謳われるようになり、以前に比べたら「自分らしく」生きやすくなったのかもしれない現代社会。とはいえやっぱり、若い女性向けブランドの服をこの歳で着るのは恥ずかしいかなと躊躇したり、やりたいことを仕事にしたいのに「こんな歳で夢物語みたいなこと言ってるの痛いかな」と感じてしまったり、気が付くと世間の目を気にしてがんじがらめになってしまっている自分がいたりする。根付いた価値観って、そう簡単には変わらないものだ。
もし同じように悩んで生きづらいと感じている人がいたら、ぜひおすすめしたいのが漫画『各位、私のことはお構いなく』(文京子:作画、egumi:原作/DPNブックス)だ。
37歳にふりかかるノンデリ&ルッキズム
物語は、とある企業の総務部の一角から始まる。そこで働く37歳の智子は、素朴な容姿で、少しぽっちゃりとした体型。そんな彼女と20代の新入社員のスタイルを比べて、上司は馬鹿にして大笑いする。彼女を引き合いに出した同い年の同期も悪いとは思っていない様子。悲しいけれど、こんな場面はこの世にいくらでもあるんだろうなと感じてしまうリアルさだ。

そこで登場するのがこの作品の要となる人物、社内で変人扱いされている「初瀬はる」だ。推定60歳の彼女は、決してその場の空気に流されず、言いたいことをズバッと言う。その強気な立ち居振る舞いから社内では「クセ強の高齢独女」と冷笑されてしまっている。

しかし、いじられてモヤモヤしていた智子にとって、初瀬さんの発言は自分の本心でもあった。次第に初瀬さんが気になっていく智子。気が付けば、隠していた自分の本心と少しずつ向き合えるようになっていく。
この世界は“正しくないおばさん”に厳しい

この作品は、面倒な人間関係の中で度々起きる「なんだか嫌な感じ」をとても高い解像度で描いているところが面白い。「こういうやついるよね!」「この嫌な言い方あるあるだわ」と、読んでいるこちらも気付けば深く感情移入している。だからこそ傷つけられた智子に自分も胸が痛くなり、みんなが抱えるモヤモヤを代弁してくれる初瀬さんのズバッと切り込んでくる発言が、より爽快に感じられる。

一方でこれは、ただ嫌な奴をぶった切るだけの漫画、というわけでもない。例えば体型やファッションをいじられて嫌な思いをした智子も、初瀬さんのファッションに対して「バブル引きずってるおばちゃん」なんて言葉を使ってしまうことも。そして、それを初瀬さんに指摘されてギクッとする。実は、自分を生きづらくさせているのは、他人の目ではなくて、“自分の中にある世間の目”なのかもしれない。この作品を読んでいると、そう感じる瞬間が多々ある。

また、智子はもちろん、智子にきつく当たっていた同期たちにも、誰にも言えない生きづらさやモヤモヤがある。世間の目を気にして、うまく生きているように見えて、知らず知らずのうちにたくさん傷ついてしまっている。初瀬さんの存在は、そういう彼女たちにとって、いつのまにか救いとなっていく。もちろん、読んでいる私たちにとっても同様だ。そんなことはつゆ知らず、今日も自由に自分らしく生きている初瀬さんに、つい憧れてしまうのだった。
文=園田もなか
