このOLの正体、マリー・アントワネット。ヴェルサイユ仕込みの気高さと処世術で挑む令和の会社員生活【書評】

マンガ

公開日:2025/11/11

「パンがないならお菓子を食べればいい」。この有名な言葉と共に知られるマリー・アントワネット。そんな彼女がもし現代日本に転生したら? そのユニークな発想をマンガにしたのが『オフィス勤めのマリー・アントワネット』(いのこざ/KADOKAWA)だ。ページをめくるたび、人間味あふれる王妃の姿に引き込まれるはずだ。

 1793年10月16日、革命のただ中で断頭台に散ったマリー・アントワネット。だが、死後の世界と思しき不思議な空間で「神」と名乗る女性と出会い、転生することになる。目を覚ました先は令和の日本。しかも会社員としての新しい人生だった。ヴェルサイユで培った気高さと処世術を武器に、マリーのオフィス生活が始まる。

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 最初は文化も常識も違う環境に戸惑うばかり。だが、同僚の山田花子との出会いが大きな転機となる。マリーが打ち明けた、かつて王妃として味わった苦悩を、山田は「ブラック企業から転職してきた話」と勘違いし、彼女を支えようと寄り添う。こうしたすれ違いが笑いを生みつつも、マリーの心を動かしていく。

 当初は王妃さながらの態度をとり、周囲と衝突しがちなマリーだったが、山田の温かさと厳しさに触れるうち、転生前の言動も省みたり人や仕事に対して真摯に向き合ったりするようになる。一般的なマリー・アントワネットのイメージとして語られる「冷酷さ」とは異なり、人間的な弱さや悩み、率直な人間性が描かれ、読者は新たなマリー像に出会うことになる。

 奇想天外な転生物語でありながら、描かれるのは人としての成長や人間関係の温かさだ。山田や周囲との掛け合いや、パソコンも使えないマリーの暮らしはコミカルで笑いが絶えない。同時に、マリーが少しずつ周囲に受け入れられ、自らも変わっていく過程には、どこか清々しい気持ちになる。

もし仕事に疲れたり、人間関係に悩んだりしたときは、本作を手にとってみてほしい。ヴェルサイユ仕込みの王妃が、オフィスでどんな風に奮闘するのか。その姿に笑い、励まされ、少し心が軽くなるはずだ。

文=ネゴト / fumi

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