「我が子を幸せにしたい」その願いが母親を追い詰めていく…お受験の闇に飲まれ暴走した主婦の行く末は?【書評】
公開日:2025/11/8

我が子が幸せに生きてほしい。親ならば誰もが願うことだ。だが『お受験地獄に堕ちた女』(かげやまあづさ:原案、夏木美香:漫画/KADOKAWA)は、子どもの幸せを願うあまり、普通の主婦がお受験の泥沼へと引きずり込まれていく姿を描いた物語だ。
主人公の森田奈央は、夫・陽介と一人息子とともに平穏な日々を過ごしていた。だが奈央にはどうしても消えない悩みがあった。陽介の家系はキャリア官僚や国際弁護士など高学歴のエリートばかり。そのため高卒の奈央と息子は、姑や小姑から格下扱いを受ける毎日に苦しんでいた。引け目を感じていた奈央は「せめて息子だけは、この家で誇れる存在にしたい」と強く願い、幼稚園受験を決意する。
奈央は友人の紹介で“お受験の達人”と呼ばれる上条詩織に出会う。美しく聡明な詩織は教育や成功を華やかに語り、奈央を惹きつけていく。最初は半信半疑だったものの、体験教室で詩織の巧みな言葉に心を奪われ、次第に夫や友人の忠告が耳に入らなくなり、奈央はお受験の泥沼に堕ちていく。
膨大な金と時間を費やし、奈央の生活が崩れていく様子は痛々しい。彼女にあったのは、ただ子どもの幸せを願う気持ちだったはずだ。しかし家庭内で感じる劣等感と焦りが肥大化し、子どもの幸せよりも「自分が認められたい」という思いの方が強くなっていく。結果として、奈央は息子の気持ちにも目を向けられなくなり、ただ“勝ち組”という幻想を追い求めてしまう。お受験を通して幸せを掴もうとしたはずが、いつの間にか崩壊への道を選んでいたのだった。
お金が尽きた奈央はついに一線を越えてしまう。取り返しのつかない選択をしてしまった彼女には何が待ち、ここからどう立ち上がるのか。暴走した母親の行く末を見届けてほしい。
文=ネゴト / fumi
