親ガチャは乗り越えられるのか?毒親に縛られた少女が、自分の人生を取り戻すまで【書評】
公開日:2025/12/5

近年よく耳にする「親ガチャ」や「毒親」という言葉。『さよなら大嫌いなお母さん 毒親からの解放』(みちか:原作、kanata:漫画、リアコミ:企画/KADOKAWA)は、毒親のもとに生まれた女性の苦しみと、その先にある再生を描いたコミックだ。家族との関係に悩む人や、過去の傷を抱えている人にそっと寄り添う物語である。
ヒステリックな母親のもとで育った主人公のみちか。父親は助けてくれず、やがて単身赴任してしまう。兄は自室にこもり、家で味方になってくれたのは飼い犬だけだった。母親は、友人関係から進路、服装や髪型に至るまで厳しく干渉し、少しでも思い通りにならないと、暴言を浴びせた。そんな環境の中で、みちかはいつも母親の顔色をうかがいながら生きることを「普通」だと感じていた。
だが成長するにつれ、外の世界に触れることで母親の異常さに気づいていく。友人たちと接し、自分の家庭との違いを感じたことで初めて「うちの母は少しおかしいのかもしれない」と思うようになる。しかし、それでも母を嫌いにはなれなかった。厳しく支配的であっても、たまに褒めてくれたときの嬉しさが忘れられなかったからだ。「自分が頑張れば、また笑ってくれるはず」と信じ続けるみちかの姿には、痛ましさと純粋さの両方を感じる。
それでも、母の支配と暴言に心身ともに限界を迎えたみちかは、単身赴任中の父に助けを求めることを決意する。ようやく絞り出した「助けて」の言葉に、助けを求めることは弱さではなく、自分を守る強さだと感じる。母親から離れ、傷と向き合いながらも、少しずつ自分の人生を取り戻していくみちかの姿には、静かな勇気が感じられる。そんな彼女がした決断や兄や父親を含む家族の本音は、ぜひ本書で見届けてほしい。
子どもは親を選べない。けれど、自分の生き方は、いつからでも自分の手で選ぶことができる。過去に囚われていても、未来は自分の手でつくっていけるそんな力強いメッセージが、この作品には確かに込められている。
文=ネゴト / fumi
