「都合のいい女」だとわかっているけれど。出会った日に“好き”になり、“セフレ”になった恋の行方【書評】

マンガ

公開日:2025/12/4

 恋はなかなか思い通りにいかない。特に大人になるほど、“好き”という気持ちだけではどうにもならない現実を知ることも多いだろう。『セフレ婚 出会ったその日に心も体も奪われた私は』(B.B軍曹/KADOKAWA)は、そんな“オトナの恋愛”のリアルを鋭く、繊細に描いたコミックだ。

 主人公の「B.B軍曹」は、オンラインゲームで知り合った男性「キャプテン髭ちんぽこ(通称:髭)」とオフ会で出会い、惹かれ、流れのままに一夜を共にしてしまう。翌朝、素直に自分の想いを伝えるが、返ってきたのは「付き合えない」という冷たい言葉。代わりに提示されたのは、“セフレ”という関係だった。それでも彼のそばにいたいと、B.B軍曹はその条件を受け入れてしまう。

advertisement

 一見すると軽はずみで危うい選択。だがそこにあるのは、“本音を隠してでも誰かを愛したい”という切実な人間の心情。本作の魅力は、そこにある。割り切った関係のはずなのに、ふとした優しさに心が揺れる。「都合のいい女」だとわかっていても、好きな気持ちをやめられない。そんな矛盾に満ちた恋の苦しさが、リアルな筆致で描かれている。

 作者は、Instagramフォロワー約40万人(2025年10月時点)を誇る人気クリエイター・B.B軍曹。彼女の作品は、アートのように美しい線と繊細な表情描写が特徴だ。セリフの一つひとつに心情がにじみ出ており、静かなコマの間にも痛みと余韻が漂う。都合のいい関係に甘んじたくないのに、彼のそばを離れられない。そんな主人公の苦しみと切なさが、ページをめくるたび胸に刺さる。

 誰かを好きになるというのは、こんなにも不器用で、こんなにも苦しい。それでも人は、また誰かを愛そうとする。本作は、恋に傷つきながらも人を求めてしまうすべての大人に響く作品だ。甘くてほろ苦く、少し痛いけれど、どこか救われる。そんな“大人の恋”の現実がここにある。

文=ネゴト / すずかん

あわせて読みたい