人間不信の野良猫と孤独な人間。二つの心が触れ合うまでを描いた『ブリちゃん日記 猫なら産みたい』【書評】

マンガ

公開日:2025/12/7

ブリちゃん日記 猫なら産みたい』(私屋カヲル/竹書房)は、野良猫と人間のあいだに生まれる小さな奇跡を、ユーモラスかつ温かく描いたセミエッセイ漫画だ。著者は『少年三白眼』『ちびとぼく』『こどものじかん』などで知られる漫画家・私屋カヲル。本作では、自身の生活と猫との関わりを題材に、リアルとフィクションを織り交ぜつつ、人と動物の共生を静かに見つめている。

 物語の舞台は築50年の木造一軒家。漫画家として2階の作業部屋で暮らすワタシヤ先生のもとに、ある日、ベランダへふらりと1匹の野良猫が現れる。最初は互いに距離を取りながらの“観察期間”だったが、エサをあげるうちに少しずつ心を開き、やがてベランダがその猫“ブリちゃん”の居場所となっていく。夫と別居し、仕事一筋の日々を送っていた先生が、ブリのために寝床を作り、エサの時間に合わせて生活を整えるようになっていく。その変化が、互いの世界をやわらかく変えていく。

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 とはいえ、野良猫を飼い猫にするまでの道のりは決して容易ではない。人間への警戒心を解くまでの時間、自宅に来ても全く懐かず威嚇を続ける日々、病院に連れて行く苦労など、思うようにいかない現実が続く。それでも、ブリが安心して暮らせるようにと根気強く向き合うワタシヤ先生の姿に、読む者は胸を温められる。人間不信のブリと、孤独を抱える先生。二人のあいだに芽生える信頼が、静かな感動を呼ぶ。

 本作の魅力は、“猫がかわいい”という一言では語れない深さにある。猫との交流を通して、人と人との距離感や思いやり、そして「共に生きる」という普遍的なテーマが描かれている。筆致は淡々としていながらもどこかユーモラスで、ページをめくるたびに誰かを思いやる優しさがじんわりと広がっていく。

 野良猫を迎えることの難しさと尊さ、そして日常の中にある小さな幸せを教えてくれる一冊。ブリと先生が共に過ごす穏やかな時間には、静かで確かな愛情が息づいている。

文=ネゴト / すずかん

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