迫稔雄が描くボクシング業界のリアルと狂気――『嘘喰い』『バトゥーキ』に続く挑戦作『げにかすり』は「綺麗ごとでは終わらない世界」【インタビュー】
PR 公開日:2025/11/22

『嘘喰い』『バトゥーキ』で知られる迫稔雄先生の最新作『げにかすり』。本作で挑むのは、ボクシング業界。金儲けのために自分を利用してきた“げにかすり”たちへの復讐、そして人生の再起を誓う元プロボクサー・針磨梁(通称・ハリー)が、プロモーターとして業界に殴り込む姿を描く。
連載開始直後から大きな話題を呼び、現在2巻まで発売中の本作。ちなみに迫稔雄先生自身も、執筆の傍らボクシングに打ち込み、大会で優勝した経験を持つ。
――“描く”ことと“闘う”こと。その両方を知る漫画家は、今、何を見つめ、何を描こうとしているのか。『げにかすり』誕生の舞台裏に迫った。

“運動不足”から始まった、漫画家・迫稔雄の格闘技との出会い
――『げにかすり』連載の傍ら、実際に試合にも出場されるほど格闘技に打ち込まれている迫先生ですが、その原点はどんなところにあったのでしょうか。
迫稔雄さん(以下、迫):実は『嘘喰い』を連載していた3〜4年目の頃、体重が83キロ近くまで増えてしまったんです。当時は、起きてすぐ机に向かい、原稿を終えたらそのまま床に寝転がって、また起きて描く……そんな生活をずっと続けていました。運動なんてまったくしなかったんですよ。そうしたら、体重の増加だけでなく、肩も痛いし、手もしびれてくるしで、「このままでは長く漫画を続けられない」と感じて。そこから少しずつ運動を始めるようになりました。
――仕事のために身体を立て直そうと思われたのがきっかけだったんですね。
迫:それで運動を続けるうちに、格闘技ジムにも通うようになったんです。ただ、当時のジムは夜のクラスが中心で。夜は漫画家にとって一番集中できる仕事時間ですから、通うのはなかなか大変でした。そんな頃、ちょうど子どもが生まれて、夜中に2時間おきに泣くんです。それをきっかけに、早起きする生活に切り替えてみたんですよ。最初は試しのつもりでしたが、次第にそれが習慣になり、最終的には朝3時50分くらいには起きるようになりました。朝は仕事場まで走っていき、1人で作業をして、夕方には仕事を終える。そしてそこからジムに行くというサイクルができあがったんです。
――日課として生活に組み込まれていったと。
迫:自分が集中してやるべき仕事は自分でやり、細かい作業はスタッフに任せるなど、思い切って役割を整理して、運動の時間を確保していました。『嘘喰い』の頃は、週刊連載を続けながらジムにも通って、試合にも出ていましたが、今は隔週連載なので、だいぶ運動もしやすくなりましたね。
――今年の8月には「OFB(ザ・おやじファイト)」日本選手権で優勝を果たすなど、ここ最近は格闘技の中でも特にボクシングに力を入れている印象です。ボクシングに没頭するようになったきっかけを教えてください。
迫:最初は、総合格闘技のジムに通っていたんです。今でも時々行っていますが、当時は寝技も含めて総合的に練習していました。ただ、寝技は指を掴んだり、強い力で引っ張ったりと、どうしても手の怪我のリスクが高い。指を脱臼したりすることもあるので、「これは漫画家にとって致命的だな」と思ったんです。
――確かに、指を痛めるのは漫画家としては絶対に避けたいところですよね。
迫:その点、ボクシングはグローブも大きく、ヘッドギアも着けますし、僕の場合はプロではないので、鼻血などの軽い怪我はあっても、骨折のような大きな怪我はほとんどありません。そうした安全面も含めて、アマチュアとして取り組むならボクシングがいいなと思いました。そうして続けていくうちに、ボクシングそのものの楽しさを自分でも感じるようになっていって……。気づけば、自然とボクシングにのめり込んでいましたね。

