千年に及ぶ愛と血のドラマが、とうとう完結! 優姫、枢、零の美しき三角関係の行く末は――『ヴァンパイア騎士』【書評】

マンガ

公開日:2025/12/5

ヴァンパイア騎士memories 11巻
ヴァンパイア騎士memories 11巻(樋野まつり/白泉社)

 人間と吸血鬼が同じ学園に通っている。そんな非日常が当たり前のように息づく場所――黒主学園。デイ・クラスに通う人間と、ナイト・クラスに通う吸血鬼が“共存”しているその学園で、優姫は校内の風紀を守る守護係を務めている。同じく守護係である幼なじみの零と、純血の吸血鬼・枢先輩の間で心がゆれながら、人間と吸血鬼の橋渡し役として日々奔走するが……。

 2005年から2013年までマンガ雑誌『LaLa』で連載され、アニメ化もされた『ヴァンパイア騎士』(樋野まつり/白泉社)。その続編となる『ヴァンパイア騎士memories』も『LaLa DX』で長期連載され、このたび完結巻となる11巻が発売。通常版に加え、TVアニメのキャスト(優姫:堀江由衣、零:宮野真守、枢:岸尾だいすけ)が出演するボイスドラマ&小冊子付きの特装版も発売された。

大きな宿命を背負う主人公と、彼女を見守る2人のカッコいい“騎士”

 主人公・優姫は明るく前向きに生きている一方で、実は大きな宿命を背負ってもいる。自らの出自を知った瞬間から、優姫の運命は動きだす。そんな彼女を見守る2人の“騎士”――錐生零と玖蘭枢が、それぞれ超絶にカッコいい。

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ヴァンパイア騎士
ヴァンパイア騎士
ヴァンパイア騎士
ヴァンパイア騎士

 家族を奪った吸血鬼を憎みながら、自分自身も吸血鬼に変異していく零。そんな矛盾を抱える彼は、優姫とは別の在り方で“自分が何者なのか”という命題に向き合っている。完全無欠に見える枢とは対照的に、不器用で、どこか壊れそうな少年だけれど、その脆さがまた魅力にもなっている。

 一方の枢は優雅で、どこか達観した雰囲気をまといながらも、過去の因縁や血筋に縛られている。優姫を守ろうとする思いは決して揺るがないが、その背景には複雑な思惑が潜んでいる。“正しさ”や“愛情”の一言では説明しきれない枢の行動の数々は、このシリーズの大きな推進力になっている。

 吸血鬼という設定に、さまざまな意味合いを込めている点も興味深い。

 純血種を頂点として貴族、平民、さらに人間から吸血鬼となった者。これらがピラミッド型の階級を成していて、血の差が力の差を生んでいる。また、玖蘭一族を中心に繰り広げられる同族間の愛憎劇もヘヴィだ。物語が進むにつれ、主人公3人の血筋の秘密や過去の因縁が次々と明かされていく。そして恋愛だけでなく“家族”や、“生まれつき背負わされた役割”へと、テーマはどんどん広がりを見せる。優姫がどんな気持ちで未来を選び、誰を守ろうとし、何を諦めたのか。ラストシーンでの彼女の選択が、読む者の胸に静かに沁みてくる。

千年後を舞台にした“次世代編”

『ヴァンパイア騎士』の正統続編として、千年に及ぶ物語を描いた『ヴァンパイア騎士memories』。長い眠りから目覚めた枢に、優姫が遺した2人の娘たちが、彼が眠っていた間の出来事を語っていく。優姫と零、藍堂と沙頼の関係、人間と吸血鬼との対立、そして恋と愛の姉妹の間に生まれる葛藤……。

ヴァンパイア騎士memories
ヴァンパイア騎士memories
ヴァンパイア騎士memories

 前世代である優姫、枢、零らがなし得たことと、なし得なかったことを描き、次世代である娘たちがその思いを引き受ける。吸血鬼という特別な力を持つ者たちの話でありながら、彼ら彼女らの悩みや気持ちは現実の私たちと地続きだ。だからこそ感情移入しやすく、読み終えたあとも余韻が残る。

 美しくて、少し苦くて、それでもどこか温かい。そんな独特の感触が、本作が約20年にも亘って長く愛されている理由なのだろう。

文=皆川ちか

『ヴァンパイア騎士』1巻を無料試し読み
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