隣人のお姉さんに憧れて“カメラ愛好家”に! 内気な女子高生がファインダー越しに“新しい自分”を見つける青春ホビー漫画【書評】

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PR 公開日:2025/11/21

カメラ、はじめてもいいですか?
カメラ、はじめてもいいですか?(しろ/少年画報社)

 歳を重ねると、新しい世界へ踏み出す冒険心が薄れていくような気がする。色んなことに挑戦してみたい。そんな若かりし頃のチャレンジ精神はいつの間にか鎮火し、忙しい日々を乗り切れる大人にはなれた。

 だが、安定した暮らしの中で心がザワつく瞬間がある。一度きりの人生、こんな過ごし方でいいのだろうか…と。

カメラ、はじめてもいいですか?』(しろ/少年画報社)は、そんなモヤモヤを抱えている人に刺さるホビー漫画だ。同作は、2023年に実写ドラマ化も果たしている。

 主人公の池田ミトは成績が悪くて近所の高校に行けず、ひとり暮らしをしながら高校へ通う日々。根暗で冴えない自分のことが嫌いだった。だが、社交的でおしゃれな隣人・綿矢チサトとの出会いにより、ミトの暮らしや価値観は大きく変わっていく。

 ある日、ミトはカメラが趣味のチサトからカットモデルを頼まれた。戸惑いつつも、モデルを引き受けたミトはチサトが撮った写真を見て、いつもとは違う自分の姿に驚く。

 チサトが見ている世界は、こんなにも美しいのか…。この人についていけば、私だって変われるかもしれない。そう思い、ミトはチサトからお古のカメラを借りて写真を撮るようになった。

 すると、チサト以外のカメラ仲間やコスプレイヤーの友だちができるなどして、周囲が賑やかに。カメラ仲間と交流を深める中で、ミトは撮り手の性格や個性、その瞬間の想いが如実に反映される“カメラの世界”に魅了されていく――。

 本シリーズでは、カメラに関する知識が詳しく描かれているので、カメラ愛好家はもちろん、知識ゼロでも楽しめ、世界観に入りやすい。作者は、機種やメーカーごとの特色も具体的に解説。「自分なら、どのカメラを選ぶだろう…」と、つい想像が膨らみもする。

 また、本作はカメラに興味がある方だけでなく、自分に自信をなくしている方にも刺さる作品だ。なぜなら、作品を読んでいると、「あなたらしさが大切」というメッセージが伝わってもくるからだ。

 作者は、性格や価値観、生き方などが異なる登場人物たちが互いの写真を“その子にしか撮れないもの”として肯定し合う姿を描いている。例えば、ミトはシャイなカメラ仲間の写真は「クール」と褒め、その友人だからこそ撮れるものなのだと肯定的に受け止める。

 そして、ミトの友人は体型にコンプレックスがあると話すミトに「私から見たら素敵な個性」との言葉をかける。

 そうした温かい交流に触れると、自分が短所だと思っている部分も他の誰かから見れば“あの子らしい大切な長所”に映っているのかもしれないと思えて、自己卑下が影を潜めるのだ。

 なお、最新刊である7巻では、ひょんなことからミトはバニーのコスプレをして被写体になることに…! これまで、ありのままの姿を撮影してもらうことが多かったミトは戸惑ったものの、撮影を進める中で、作りこんだ自分を撮影してもらうという新たな楽しみを知ることとなる。

 ちなみに、最新刊でもミトの友人らの熱いカメラ愛は健在。ワンタッチでシャッターを切れるスマホとは違い、ピント合わせやフィルム送りを手動で行わねばならないカメラならではの手間を愛しく思う姿は、特に心に刺さった。

 今は、スマホで撮った写真を簡単に加工してSNSなどへアップできる時代だ。だからこそ、考えたい。自分は、本当に伝えたいワンシーンや心に刻んでおきたい記憶を“写真”という形で大切に切り取れているのだろうか、と。

 時には加工フィルターを外し、自分が見ている普段の風景や楽しい日の思い出を、ありのままに写し出してみると、得られる気づきは意外と多くあるのかもしれない。

 暑さが去った秋冬の時期は気温によって、アクティブに動ける日もあれば、インドアでいたい日もあるもの。カメラは、そのどちらの日にも楽しめる趣味だ。ぜひ、本作との出会いを通して、カメラの奥深さはもちろん、いつもの日常から一歩踏み出すことの楽しさも知ってほしい。

文=古川諭香

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