夫は優しくて頼りがいがあるのに苦しいのはどうして? 言葉によって生まれる見えない家庭内支配の恐ろしさを描く【書評】

マンガ

公開日:2025/11/27

ママはパパがこわいの? 夫の扶養からぬけだしたい~ゆうかの場合~』(ゆむい/KADOKAWA)は、モラハラという言葉では一括りにできない、家庭内での支配と心のすり減りを描いたコミックエッセイだ。

 出産を機に、美容師の仕事を辞めて専業主婦になった主人公・ゆうか。夫・てるおは、外では頼りがいがあり、家の中では家事を手伝ってくれる理想の夫に見える。しかし、彼の言葉の端々には「俺がいないと何もできないね」といったトゲがあり、ゆうかはそれを聞くたびに心の奥をざわつかせる。

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 モラハラと聞くと、直接的な暴言や威圧的な態度を思い浮かべるだろうが、てるおのような無意識のうちに妻の自己肯定感を奪っていくタイプも忘れてはならない。トイレを直してくれる、重い荷物を持ってくれる。そんな「優しさ」が、支配するための道具になる。夫に悪意はなく「自分が家族を守っている」という使命感から行動しているが、その根底には「男は、女は、かくあるべき」という古い価値観が染みついているのだ。ゆうかは夫が不機嫌になることを恐れ、いつの間にか彼の機嫌を取ることが生活の中心になっていく。

 本作が訴えるのは、「優しさ」が「支配」につながる可能性があるということだ。「頼りがいがあるのに息苦しい」という誰にも言えない苦悩と葛藤。本書は暴力ではなく言葉で人を縛ることの恐ろしさを描き、そんな潜在的な支配に苦しんでいる人に向け、「気づくこと」と「自分を取り戻すこと」の大切さを教えてくれる。

文=ネゴト / すずかん

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