壮絶な抗がん剤治療。「体中の穴という穴からいろんなものが噴出」37歳で大腸がんステージ4と診断された漫画家の体験記【著者インタビュー】

マンガ

公開日:2025/12/3

 仕事や子育て、日々の暮らしを優先して、自分の健康を後回しにしているという人は少なくないだろう。『痔だと思ったら大腸がんステージ4でした 標準治療を旅と漫画で乗り越えてなんとか経過観察になるまで』(くぐり/KADOKAWA)で描かれるのは、37歳、仕事優先で生活していたくぐりさんに訪れた試練の日々だ。

 ある日、くぐりさんはお尻から出血。1年前のいぼ痔が再発したに違いないと思い込んで放置していたら、大腸がんステージ4だと発覚した。

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 直腸を埋め尽くすほどのがんは、すでにほかの臓器にも広がっていて手術はできず、抗がん剤でしか治療ができない状態。そこからおよそ2年間、くぐりさんは治療をしながら、四国八十八ヶ所巡りをしつつ、漫画家デビューをはたす。

 無治療経過観察にいたるまでの怒涛の日々を描いた本作は、がん闘病中の人やその家族だけでなく、日々を忙しく過ごしている人たちの胸にも響く。

 自分の身体をもっと労わり、家族との時間を大切にしたい…。そんな思いを抱かせるコミックエッセイだ。漫画制作の裏話や闘病の日々を、作者・くぐりさんに伺った。

※書籍出版当時の体験、お話をもとにインタビューを行っています。治療などに関する専門情報は、各医療機関にご確認ください。

――37歳でステージ4の大腸がんと診断されたくぐりさん。病気の発覚から治療まで、お辛いことばかりだったかと思いますが、とくに辛かったのはどういう時だったのでしょうか。

くぐりさん(以下、くぐり):一番辛かったのは抗がん剤の点滴中です。吐き気と倦怠感、発熱と悪寒、そして、体中の穴という穴から汗、涙、鼻水、ヨダレ、いろんなものが噴出してくることに苦しめられました。

 少しでも体を動かすと猛烈な吐き気に襲われるのでジッとしていたいのに、汗や鼻水を拭きたくなる。ヨダレが口いっぱいになり、飲み込むのも気持ち悪いのでティッシュに出そうと身を起こすと、耐えがたい吐き気に襲われて悶絶する…。この繰り返しで、身の置き場がありませんでした。吐き気止めの薬を飲んでもこんな状態でした。

――話を聞くだけでも、かなり壮絶です……。

くぐり:また、抗がん剤の副作用で下痢が続いたせいか、肛門周囲膿瘍にも苦しめられました。ですが、「肛門周囲膿瘍かもしれないんです!」と主治医や他の病院で訴えても「違うと思います」と言われ、なかなか診断はおりませんでした。

 適切な治療にたどりつけずに数カ月が経ち、「痔瘻」になってしまいました。痛みで歩くこともできなくなった時は本当に辛かったです。

 肛門の専門医でないとわからないような特殊な位置の膿瘍だったようで、何箇所か受診したうちのひとりの肛門専門のお医者さんがようやく気づいて治療してくださいました。主治医やその後かかった関係者の方を責める気持ちはありません。セカンドオピニオンの大切さと、専門のお医者さんにかかることの大切さを感じました。

――がんに罹患し、今も闘病している人たちに向けて、メッセージをお願いします。

くぐり:がん発覚時や治療中は、真っ暗な闇の中に突き落とされた気持ちになる人が多いのではないかと思います。周りの健康な人がまぶしく見えて、自分はいつ終わるかもわからない治療の日々の中、今までの社会や生活から追い出されたような孤独を感じている方もいるかもしれません。

 辛い時は無理に前向きにならなくてもいいかと思います。たくさん泣いて、落ち込んで、愚痴を吐いて、そんな自分も良いのではないでしょうか。そうやってとことん落ち込んで、自分の悲しみに向き合ってみる時間も大切なのかもしれません。

 治療を受けているだけでもう充分頑張っていると思うので、無理して明るくふるまおうとか、がんに負けずに何かに取り組もうとか、そんなことは置いておいて、自分の気持ちをとにかく大事にしてあげてください。もちろん、目標がある方にはそれが達成できるよう、応援の気持ちを送ります。

 自分以外の人に頼るのも良いと思います。近くにご家族などいれば良いのですが、一人暮らしの方は通っている病院で相談できる窓口を利用するのも良いのではないでしょうか。

 私は落ち込みがひどかったので、ステージ4告知の時から緩和ケアの心理士さんやがんの認定看護師さんに心の悩みを相談していました。家族には言えない悩みでも他人である病院の人には言えたりするので、また違った視点からアドバイスをいただけたりしました。

 同じがん患者の方が安心して心穏やかに治療を受けられるように心から願っております。

取材・文=アサトーミナミ

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