37歳で大腸がんステージ4に。闘病を支えた家族との旅の時間「四国八十八ヶ所巡り」【著者インタビュー】
公開日:2025/12/7

仕事や子育て、日々の暮らしを優先して、自分の健康を後回しにしているという人は少なくないだろう。『痔だと思ったら大腸がんステージ4でした 標準治療を旅と漫画で乗り越えてなんとか経過観察になるまで』(くぐり/KADOKAWA)で描かれるのは、37歳、仕事優先で生活していたくぐりさんに訪れた試練の日々だ。
ある日、くぐりさんはお尻から出血。1年前のいぼ痔が再発したに違いないと思い込んで放置していたら、大腸がんステージ4だと発覚した。
直腸を埋め尽くすほどのがんは、すでにほかの臓器にも広がっていて手術はできず、抗がん剤でしか治療ができない状態。そこからおよそ2年間、くぐりさんは治療をしながら、四国八十八ヶ所巡りをしつつ、漫画家デビューをはたす。
無治療経過観察にいたるまでの怒涛の日々を描いた本作は、がん闘病中の人やその家族だけでなく、日々を忙しく過ごしている人たちの胸にも響く。
自分の身体をもっと労わり、家族との時間を大切にしたい…。そんな思いを抱かせるコミックエッセイだ。漫画制作の裏話や闘病の日々を、作者・くぐりさんに伺った。
※書籍出版当時の体験、お話をもとにインタビューを行っています。治療などに関する専門情報は、各医療機関にご確認ください。
――37歳でステージ4の大腸がんと診断されたくぐりさん。本書でも描かれていますが、くぐりさんは、治療の合間に四国八十八ヶ所巡りをしました。治療中に旅や巡礼を始めようと思ったきっかけを改めて教えてください。
くぐりさん(以下、くぐり):徳島に住んでいるので、春や秋の気候が良い時期に四国八十八ヶ所巡りをするお遍路さんの姿をよく見かけていました。そのため昔から自然と四国八十八ヶ所巡りに興味がありましたが、「もうちょっと歳をとってからしたいな」と曖昧に思っていました。
ですが、がんに罹患してあまり長生きはできないかもしれないと思い、「巡るなら今しかない!」と思い立ちました。幸い、義両親が四国八十八ヶ所巡りのお寺の公認の案内人である「公認先達」の資格を持っていたり、夫も子どもの頃に親に連れられて一巡していたことがあり、アドバイスをもらうことができました。
これは後から思い出したことですが、夫の祖父も四国八十八ヶ所巡りのツアーを仕事にしていたと聞いたことがあります。夫も私を案内することになったのには縁を感じていました。
――体調の波がある中で、巡礼を実現するためにどんな準備をし、どのように計画を立てられたのでしょうか。
くぐり:入院中に抗がん剤投与を行っていたので、退院後の副作用が落ち着いてきた時に行くようにしていました。お参りに必要なグッズや着替え、上着、毛布などはいつでも行けるように事前に準備して玄関や車に置いていました。
――旅は、治療や心境にどのような影響があったのでしょうか。
くぐり:治療は辛く苦しくゴールが見えず暗闇の中をもがくような感じだったのですが、旅は目標がありゴールがあったので、ひとつの寺を回るたびに前に進んでいる気がしてうれしかったです。そしてお寺は山の中や海沿いにあり、その自然を味わえたのも良かったです。
自然の中、下界の音も聞こえずただ鳥や木の音を聞きながら長い階段を上っていると、自分の心臓の音が聞こえてきて、階段が苦しいはずなのになんだか心地良く感じている自分がいました。
取材・文=アサトーミナミ
