「お母さんの言うとおりにすれば大丈夫」過干渉な母親に心を縛られた少女が、本当の愛を知るまで【書評】
公開日:2025/12/4

相手を大切に思う気持ちと、苦しめることは紙一重だ。愛情は時として、呪縛に変わる。『「お母さんの言うとおり」にしてきたのに 家族全員でいじめと戦うということ。 サキコの場合』(さやけん/KADOKAWA)は、いじめや家族の問題を軸に、人を思う気持ちの難しさに迫る物語だ。
主人公のサキコは、幼い頃から母の言葉どおりに行動してきた。「お母さんの言うとおりにすれば大丈夫」。そう信じて過ごすうちに、サキコは幼稚園で孤立していく。自身の母に“モンスターペアレント”のレッテルが貼られたためだ。
小学校に上がっても、同じ幼稚園の子どもが大半で状況は同じ。友達を作ることを諦めていたサキコだったが、親の転勤で引っ越してきた春子と同じクラスになる。春子は唯一、サキコと母の噂を知らない人物だった。ふたりはすぐに仲良くなった。しかし……。
「春子ちゃんの一番の親友は私だよね?」
サキコの呪縛めいた言動は、春子をいじめの渦に巻き込んでしまう。さらに母の過剰な介入が、サキコを再び暗い学校生活へと追い込む。本作では、前作『家族全員でいじめと戦うということ。』(さやけん/KADOKAWA)の春子視点では見えなかった、サキコにとっての地獄が描かれている。
人は、誰かにとっての被害者に、そして加害者にもなり得る。誰かを支配しようとするほど不安で、誰かを責めるほど寂しい。本作は、誰もが持つ“人間の弱さ”を、まるで鏡のように映し出す。自分の中のサキコや母親に気づかされる人もいるだろう。誰かを責めた瞬間、何も言えずにいた日々。それらすべてを突きつけてくるのだ。そして、心の痛みに真正面から向き合うサキコの姿は、読者自身の記憶を静かに呼び覚ますだろう。
読み終えたあと、「誰かを思いやる」とはどういうことか。そんな問いが浮かぶかもしれない。「お母さんの言うことを聞いていれば大丈夫」という、一見呪いのように響いた言葉も、物語を通して愛情の形を映し出す象徴となっていく。人間関係や、自分の感情に悩み、苦しんでいる人にこそ読んでほしい。優しくするとは何かを、自分の言葉で考えたくなる1冊だ。
