「あの時、産んでいたら」「子どもを持ったらすべてが解決する?」結婚や出産に揺れる5人の男女の物語【書評】
公開日:2025/12/8

仕事・結婚・子どもを産むか、産まないかの選択――未来が予測できないぶん、私たちは大きな悩みを抱えやすい。『元気でいてね』(藤原ハル/祥伝社)はその時々でさまざまな“選択”を迫られる私たちに、そっと寄り添ってくれるオムニバス形式のコミックだ。
結婚・子どもを産むかなど、5人の男女が抱える悩みに対する葛藤が繊細な絵で描かれた本作。年齢・境遇が異なる主人公たちは、それぞれが切実な悩みを秘めている。
たとえば第1話で描かれているのは、表紙に描かれている女性・弓井祐里の物語。子どもを持たず3年前に離婚したビジネスウーマンだが、元夫との再会でお互いの波長が合うことに気付く。そんな中、元夫から復縁を提案され――。
第2話に登場する長嶋明花音は夫と良好な関係を築くも、子どもを産まないことで生まれる苦悩から、自らも子どもを産むべきか思い悩む。登場人物の悩みはそれぞれ異なるが、いずれも世間一般で言われる「結婚し子どを産む」ことについて改めて考えさせられる。
本作はそれぞれの選択の正否を論じるのではなく、「あなたが健やかでいられる道を選んで大丈夫」と、それぞれの生き方を肯定してもらえたような気持ちになる。そう思える理由は、物語を通じて「誰を大切にしたいか」「自分は何がしたいか」など、そうしたいと思う切実な理由があることに気付かされるからだ。
とくに印象的だったのは、本作唯一の男性主人公・秋山瑛人のエピソード。ある事情から恋人との結婚・子どもを望めない彼は、子育てに奮闘する職場の女性とのやり取りを通じて、自分の気持ちや大切なものを再認識していく。実直に恋人との今後を考える瑛人の姿勢は見習いたいと思った。
『元気でいてね』という、シンプルでいて優しい言葉を冠する本作。人生の大きなターニングポイントになるような大切な選択で悩む人へ、強くおすすめしたい。
