家事も育児も協力的な夫。“いい夫”に対して不満を持つのは贅沢?【著者インタビュー】
公開日:2025/12/14

専業主婦の彩子は、デザイン事務所で働く夫・裕介と、4歳の息子・大地の3人家族。仕事をこなしつつ家事と育児にも積極的な夫に不満はなく、幸せに暮らしていた。しかし彩子には最近とある悩みが。それは「夫と会話が広がらない」こと。息子が生まれたばかりの頃は夫婦でたくさん話をしていたのに、いつの間にこんな関係になってしまったの……?
夫婦の日常を妻と夫、それぞれの視点から描く『夫と会話になりません』(上野りゅうじん/祥伝社)。“完璧主義な夫と大ざっぱな妻”というふたりの行動や思考のリアルさが魅力で、つい自分を重ねながら読んでしまう。そんな本作が生まれた経緯や反響について、著者の上野りゅうじんさんにお話を伺った。
――彩子は裕介とコミュニケーションが取れないことに悩むものの、周囲から「良い旦那」と言われる裕介に不満を持つのは贅沢だと感じます。この感情はどのようにたどり着いたものですか?
上野りゅうじんさん(以下、上野):世間一般的に「家事育児に協力的な夫はいい夫」というイメージが強すぎると思うんです。憶測ですが「協力的な夫」=「妻の気持ちがわかる」というイメージが含まれているのではないでしょうか。実際は「夫が協力的」=「夫婦関係が良い」ではない時もあるんですよね。
――実母からも「協力的な夫がいてあなたは幸せよ」と言われるシーンがあります。我々の親世代と比べると現代は夫の家事育児への参加割合は増えていると思うので、世代間の認識の差も大きいのかなとこのシーンを読んで感じました。
上野:確かに世代による価値観の変化はすごく大きいと思います。私の母はシングルマザーでしたが、祖母と祖父は完全に男女の役割分担がはっきりしている夫婦で。ただそれでもすごく幸せそうでしたね。そう考えると役割分担が決まっていること自体が悪いわけではなくて。どの世代でもお互いに不満や疑問が出た時に協力して解決することができれば、問題にならない気もします。
――これらのように家庭の外から見た裕介を描いたのは何か理由がありますか?
上野:やっぱり「イクメン」「家事育児に協力的な夫」、それだけで家庭がうまく行っているようなイメージがあるからでしょうか。実際のところは誰も家庭の現状や夫の本心を知らないわけで、そのギャップを描きたかったような気がします。
裕介本人も、外の声を知ったら「家庭のことをするだけなのにそれほど褒められるなんて……」と戸惑うと思いますね。裕介の場合は「家庭を顧みない夫」と言われたくない、責められたくない。そういう視点で考えていたはずなので。
取材・文=原智香
