出社前に駅のトイレで痛飲…「たった一杯」から始まったアルコール依存症の恐ろしさと、そこからの再生を描いた実録コミック【書評】

マンガ

公開日:2025/12/12

※この記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承の上、お読みください。

人生が一度めちゃめちゃになったアルコール依存症OLの話』(かどなしまる/KADOKAWA)は、著者自身のアルコール依存症体験と、それを克服しようとする苦闘の日々が描かれた、手に汗握るコミックエッセイだ。

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 新卒で入った会社の人間関係に疲れ切っていた主人公・かどなしまるは、ストレスが絶頂に達したある朝「一杯だけ」と口にしたカルーアミルクをきっかけに、酒なしでは心がもたない状態になってしまう。気づけば出勤前の飲酒が日常となり、ダメだとわかっていてもやめられない自分に怯えながら、生活は静かに崩れていく。「このままでは人生が終わる」と気づき、ようやくアルコール依存症と向き合い始めるが……。

 アルコール依存症は大量飲酒を想像しがちだが、実は「量」ではなく「精神的な依存」から始まることに驚かされる。缶チューハイ3本が限界で、むしろ酒に弱いはずの著者が自覚なくスルッと酒にハマっていく姿が恐ろしい。読み進めるほどに、自分の飲み方やアルコールとの付き合い方を見直したくなるはずだ。

 愛らしく親しみやすい絵柄も、依存症患者の制御不能な思考や周囲との認識のズレを、大袈裟過ぎず、しかし容赦なく伝えるのに一役買っている。駅やスーパーのトイレでこっそり酒を飲む様子や、同居する妹との刃傷沙汰寸前のやりとりといった衝撃的なシーンが心を抉る。

 最後に、この作品は再生に向けた努力と決意の物語でもある。一度アルコールによって壊れた人生をどう立て直すのか? 依存症に悩む人やその家族は、職を失い、家族と衝突し、孤独を感じながら、それでも少しずつ前に進む主人公の姿に勇気をもらえるだろう。一方、今何かに依存している自覚はないが、日々のストレス発散の方法がわからないという人も、その危うさに対する処方箋としてぜひ手にとってほしい一冊だ。

文=坪谷佳保

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