マツヤマイカ「音楽活動が、自分の中で“呪い”になっていた」。新曲「琥珀色のロンリネス」がついに念願のアニメ主題歌に【インタビュー】
公開日:2025/12/6
「まずは猫の絵を描いた」 イメージから言葉へ、1枚の絵から始まる楽曲制作
──そこで今のマツヤさんのスタイルが出来上がったわけですね。11月にリリースされた最新曲「琥珀色のロンリネス」は、TVアニメ『2200年ねこの国ニッポン』の主題歌として書き下ろし。最初にTVアニメ『2200年ねこの国ニッポン』の主題歌を手掛けることを知ったときはどう思いましたか?
マツヤ:タイアップ曲を担当させてもらえるなんて、思ってもみなかったので「できるんだ!?」と思いました。アニメの主題歌をやってみたいという気持ちはずっとあったので、すごくうれしかったです。
──「琥珀色のロンリネス」は書き下ろしですが、制作はどのように進めていったのでしょうか?
マツヤ:これまでの曲は自分の感情だけで作っていたんですが、タイアップ曲ということで作品と関連させなくてはいけない。だからどうやって作っていけばいいのか、本当にわからなくて。そもそも作曲経験もそこまで多くない私にできるのかなと思ったし、猫の曲が既に1曲あって(「猫の子」)それとかぶらないようにしなくちゃという気持ちもあったし。
──そうですよね。
マツヤ:はい。ただ、先方から作品のイメージや、楽曲のおおまかな雰囲気は指定いただいていたので、それを活かして、まずはバーっとメモを書き出しました。私は曲を作るとき、MVのイメージや世界観を決めてから曲を作り始めるんですね。だからまずは猫を描いて。
──猫の絵を!?
マツヤ:はい。絵コンテとかでもなく、ただの猫の絵を。窓辺に猫がいて、女の子がいて……と描いているうちにイメージが湧いてきて、どんどんやりたいことや入れたい言葉が浮かんでいきました。それらを書き出しているうちに解像度が上がっていって。結果的にすごく楽しい曲作りでしたね。
──作品からインスピレーションを受けたというよりは、ご自身が描いた猫からという感じだったわけですか。
マツヤ:そうですね。でも作品が、未来が舞台の話だったので、未来に対する希望も入れました。あと、作中の猫はしゃべるので「もししゃべる猫がいたらどういう気持ちなのかな」と考えたり。『2200年ねこの国ニッポン』のイメージは踏襲していたと思います。
──野暮な質問で恐縮なのですが……どうして「琥珀」だったのでしょうか?
マツヤ:「琥珀」というのは猫の目のイメージです。この曲は、主人公の男の子が好意を持っている女の子に興味を持ってもらいたいけど、猫にならないと興味を持ってもらえないと感じている心境を歌った歌。「猫になってあの子に近づきたい」という気持ちを描いたので、その切なさも琥珀色で表現できればと思いました。
──それまでご自身の感情や経験を楽曲にしていたと思うのですが、全く違うところからの曲作りをしてみて、いかがでしたか?
マツヤ:楽しかったですね。それこそ今回はエンディングで何回も流れるから、覚えやすいメロディが良いのかなとかも考えて。今まではそういうことは考えていなかったから。
──そこはアニメ好きなマツヤさんの経験が活かされているんですね。
マツヤ:はい。
──歌詞について伺ってきましたが、サウンドはどのように作っていきましたか?
マツヤ:Aメロとかは鼻歌で考えたんですけど、サビが全然決まらなくて。特に今回は覚えやすいメロディということを優先して考えてたんですが、レコード会社のスタッフさんにそれがバレて(笑)。「もうちょっとマツヤさんらしいものでもいいんじゃない?」と言われました。そこからもう一度考え直して、今の形になりました。
──ARKGOLFさんとはどのようなやりとりがありましたか?
マツヤ:今回リファレンス(参考となる資料)が全然見つからなくて。だから口頭で「ちょっと懐かしくて、キラキラした感じだけど、どこか切なさのある感じで」って伝えたんです。そしたら、それを汲み取ったようなサウンドを作ってくれたのでありがたかったです。

──レコーディングはいかがでしたか?
マツヤ:この曲はあまり強く歌いたくはないなと思っていました。猫のアニメのタイアップなので、どこか柔らかい雰囲気を持ちたいなって思って。切なさと優しさを想像しながら歌いました。
──実際に出来上がった「琥珀色のロンリネス」がアニメで流れているものを聴いてみていかがでしたか?
マツヤ:最初は実感がなかったですね。「えっ、これ、本当に?」みたいな。
──レコーディングも含めて何度も聴いた曲だと思うのですが、それでも画面の中から流れてくるとちょっと驚く?
マツヤ:はい。驚きます。そもそも、デビューしている実感もまだしっかりとはなくて。自分の曲が聴いてもらえていることはすごくうれしいんですけど、どれくらいの人に届いているのかわからないところもあるし、まだ自分がちゃんと活動をできている自信がなくて。コメントなどを読んで「ちゃんとやれているんだ」とは思うんですけど、テレビで流れているのを聴いたときに、より「ちゃんとやれているんだな」と実感できたところはありました。
──ジャケットもマツヤさんが描かれたということですが、ジャケットはどのようなイメージで?
マツヤ:この曲は、主人公の男の子が、猫になって好きな女の子に抱きしめてもらいたいという気持ちを歌ったものなので、階段を下りて猫に変身して、女の子に抱えてもらえているときのドヤ顔とキラキラ感を描きました(笑)。でも女の子は無表情なんです。それはどうしてかというと、女の子は男の子に干渉していないから。叶いそうで叶わない恋なんですね。その切なさとポジティブな気持ちをジャケットに込めました。でもこういう不思議な絵はあまり描いたことがなかったので面白かったですね。
動画は「作品」、音楽は「感情」。クリエイターとしての“使い分け”
──マツヤさんの才能がすべて凝縮されたシングルが完成しましたね。先ほど、音楽活動を始めるのは、ある種の呪いのような気持ちからだったとおっしゃっていました。実際に始めてみて、今のマツヤさんにとって音楽活動はどのようなものになっていますか?
マツヤ:音楽って目に見えないものじゃないですか。私は写真や絵といった目に見えるものを表現することが得意だったので、音楽はまた新たなジャンルに挑戦した気持ちでした。だけど、やってみると、音楽は目に見えないぶん日常に溶け込むものだなと思って。どこで聴いてもらえているかはわからないけど、歩いているときに聞いたり、気分のいいときに聞いたり、みんなの生活の中に入り込んでいる。さらにライブでノってくれている姿を見ると「ちゃんと届いているんだな」と感じてうれしくなります。それによって自分の表現したいものの解像度も上がりましたし、単純に表現できる幅が増えたという意味でうれしいし、楽しいなと思っています。
──確かに、目に見えないからこそ感情に訴えかけられるツールなのかもしれないですね。
マツヤ:そうですね。感情に寄り添うイメージというか。そういうものが作れていてうれしいなと思います。
──音楽活動での今後の目標や、やってみたいことを教えてください。
マツヤ:アニメが好きなので、こうやってアニメに関わるというのは、引き続き目標にしていきたいですね。
──では音楽に限らず、表現者・マツヤマイカとしての目標はありますか?
マツヤ:自分が表現できるものを駆使してゼロ距離で伝えていきたいなという気持ちはずっとあります。そのためにも、音楽でもイラストでも、いろいろな表現の幅をどんどん広げていきたい。イラストだったら漫画も描きたいし、色の塗り方とかも、もっともっと研究したい。二次創作もしたいし。音楽はフル尺の曲も作りつつ、短尺でMVも作りたい。そうやって裏と表の自分をうまく使い分けて表現していきたいです。
──マツヤさんは、音楽、動画、写真、絵とさまざまな表現方法をお持ちだと思うのですが、その表現方法の使い分けはどのようにしているのでしょうか?
マツヤ:だいたいのことは絵で表現できるんですよ。しかも絵は自分の中での歴が長いので、解像度高めに抽出できる。だから、これまで喜びはもちろん、負の感情も絵で表現してきたんですけど、音楽はもっと自分の内なる部分を表現できることに気づいて。しかも言葉の組み合わせで意味合いが変わったりするのも面白くて。だからやりきれない感情や悔しさとか、そういうものは音楽で表現しているのかなと思います。対して動画は、感情を出すものではなくて、あくまでも作品。だから見てもらいたいという気持ちが強いので、飽きられないように構成を考えたり、ポップにして「どうやったら笑ってもらえるかな」ということを考えています。
──それこそマツヤさんは動画でのポップな姿の印象が強いので、負の感情を表現する手法として、絵に加えて音楽も加わったというのは大きいですよね。
マツヤ:そうですね。動画で自分の負の部分は出したいとは思わないから。だけど、やっぱりそういうネガティブな感情のほうが、作る意欲は湧くし、共感しやすいものでもあると思うので、音楽という手法が加わってよかったなと思います。

取材・文=小林千絵、撮影=金澤正平
