“愛”が“正義”へ、そして“狂気”へと変わるとき。行き過ぎた推し活の成れの果て【書評】

マンガ

公開日:2025/12/21

わたしって害悪ですか?~お花畑声優厨の場合~』(岩城そよご:著、科丈ひとな(セブンデイズウォー):脚本/KADOKAWA)は、普通の“推し活女子”が次第に“害悪な推し活女子”へと変貌していく姿を描いた作品だ。「好き」という純粋な感情が、いつの間にか“正義”や“狂気”へと変わっていく。そんな危うい心の動きを、繊細かつテンポよく描き出している。

 主人公・津々見美花(26歳)は、ごく普通の会社員。日々の疲れを癒やしてくれたのは、若手イケメン声優・土岐野カエデの存在だった。グッズを集め、イベントに通い、SNSで応援し、“推し活”街道まっしぐら。だが、カエデの人気が高まるにつれ、美花の世界は少しずつ歪み始める。誹謗中傷、ルールを破るファン、炎上――“推し”を取り巻く世界に不安と苛立ちを覚えた美花は、「私が彼を守らなきゃ」と思い詰めていく。

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 SNSでの攻撃的な発言やイベントでのトラブルをきっかけに、美花は「正しさ」への確信を強めていく。友人の忠告にも耳を貸さず、「私は悪くない」と言い切る姿は、まるで信仰に取り憑かれたようだ。“推しを守る”という使命感が、次第に他者を攻撃する“狂気”へと姿を変えていくのだ。

 カエデが声優として有名になる前から劇団で一緒に芸能活動をしていたまりんの登場により、美花はついに一線を越えてしまう。カエデのスキャンダルを暴露し、炎上させるという暴挙にでるのだ。その渦中で美花の“愛”は完全に“狂気”へと変貌を遂げる。怖いのは、美花が決して特別な“異常者”ではないという点だ。彼女の原点にあるのは、「好きな人を守りたい」という純粋な感情だ。

“推し活”という文化が当たり前になった今だからこそ刺さるこの作品。愛が正義へ、そして狂気へと変わる瞬間を描いた『わたしって害悪ですか?~お花畑声優厨の場合~』は、“好き”という感情の尊さと危うさを、まるで鏡のように映し出す。SNS社会を生きるすべての人へ贈る、痛烈な心理ドラマである。

文=ネゴト / すずかん

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