『君は放課後インソムニア』オジロマコト最新作! “家族でやるアイドル”を描く再生のドラマ『しすたれじすた』【書評】
更新日:2025/12/12

「こんな“推したくなる家族”今まで見たことがない」
バラバラになっていた家族が、キラキラしたアイドル業界を舞台に再生していく物語。それが『しすたれじすた』(岡田麿里:原作、オジロマコト:漫画/小学館)である。
TVアニメやドラマにもなった『君は放課後インソムニア』(小学館)、『星野くん、したがって!』(同)のオジロマコト氏の最新作で、原作を担当するのは『アリスとテレスのまぼろし工場』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の岡田麿里氏だ。間違いなく期待できるその内容とは……。
「家族でやるアイドル」始めました。

新田明良は衣装デザイナーで主にアイドルの衣装を制作していた。彼女は夢想していた。
父がライトで照らし、弟が流す音楽の中、明良が作った衣装で歌い踊る小さな妹──。
この平和な記憶は、実家にいた14年前以上のものだ。「衣装を作る」夢のため、実家を出た明良は現在32歳。彼女は、既婚を隠して言い寄ってきた男、その妻が請求してくる慰謝料、日々深夜作業になる仕事…など、散々な現実を生きていた。
そんな折、明良は衣装制作を担当しているアイドルグループ「奥の手☆びぎにんぐ」のメンバー、“にかち”に感情を動かされた。“にかち”はルックスが良く存在感が圧倒的で、何より「もっと暴れたい」という思いが内面からあふれ出ているようだった。
明良はノリノリで良い仕事ができた。しかし「奥の手☆びぎにんぐ」のライブ中、まさかの衣装トラブルが発生。事務所は明良にその責任を押し付け、賠償金を請求してくる。
こうしてさらなる困窮に陥った明良は頼る相手もおらず、14年ぶりの実家へ向かう。そこには弟と妹たちが住んでいた。長男の幹、幼い頃コンサートごっこをして明良に懐いていた次女の葉、そして三女の仁加子こと“にかち”が待っていた。明良は仁加子が生まれる前に家を出たため、会っていても気づかなかったのだ。

新田家は長女がいなくなってから、より複雑になり思春期を迎えた妹二人の関係もギクシャクしていた。そこへ戻ってきた明良は一石を投じる。
それは「葉と仁加子の二人でアイドルをやろう」という提案であった。
家族で事務所をやって姉が衣装を作り、妹二人も各々の思いを抱えて前のめりに進み始める。「家族でやるアイドル」そのグループ名は──。
関係も気持ちも“ややこしい”きょうだいたちの物語
アイドル業界へ足を踏み入れた4人のきょうだい。彼らは遠慮がちに家族になろうとする。そのストーリーの中心になるのは三姉妹である。

ミシンにトルソー、糸と布があふれたワンルームで衣装を縫っていた明良。彼女の視点で物語は始まる。夢を叶えるためという名目で、嫌な記憶と共に音信不通になっていた“少しややこしい”実家。そこで待っていたきょうだいたちと触れ合い、明良は再生していく。さまざまな事情で潰れそうだった彼女の、クリエイターとしての能力が覚醒していく描写は痛快だ。
物語は徐々に二人の妹たちへフォーカスし、“家族”群像劇の様相を呈していく。
次女の葉は、小さい頃から大好きな家族とアイドルごっこをし、アイドルが大好きだった少女である。彼女は14年前に家を出た明良を「嘘つきおばさん」と呼ぶ。そして妹の仁加子に対して強い劣等感を抱えていた。葉が、こうした思春期の複雑な感情とどう向き合い乗り越えるかは大きなターニングポイントになる。

そして三女の仁加子。一見おっとりマイペースな末っ子である。しかし、実は観察眼に優れており、他者をクールに分析できる。とはいえ「奥の手☆びぎにんぐ」では、ルックスの良さはあっても伸び悩んでいた。それには理由があるのだが……彼女が、家族に対して向ける本当の気持ちと言葉にも注目してほしい。
本作には「アイドルを通して縫い合わされる、家族の物語。」というキャッチコピーが付いている。家族という“ガワ”は、確かに型どおり縫えば形になる。ただし、ギクシャクしている新田家のきょうだいたちにとって、家族はサイズが合っていないぶかぶかの服のようなものだ。彼らに、家族がぴったりになるには文字通り成長する必要がある。アイドルは、その助けになるのだ。
ややこしい新田家に、家族という服が似合うようになるまでの物語をぜひ見守ってほしい。彼らが皆、にかにかと笑えるようになるまでの物語を。
文=古林恭
