「北欧に住みたい」――仕事に心をすり減らした日々の果てに、結婚&スウェーデン移住へ『北欧ふたりぐらし』【書評】

マンガ

公開日:2025/12/23

北欧ふたりぐらし 5巻
北欧ふたりぐらし 5巻(だたろう著/白泉社)

 一日中仕事に追われるような生活を続けていると、ふと、何もかも捨てて逃げ出したい気持ちになる。家族のために仕事をしているのに、気が付けば家族との時間が仕事のせいで奪われてしまう。そんなジレンマに苦しむ人も少なくないだろう。欧米諸国と比べたときに、日本人は長時間労働者が多いともよく言われる。海外では定時に帰るのが一般的だ、といった話を聞くたびに、自分もそんな国に移住したらもっとゆったりと暮らすことができるのだろうか……などと夢見がちなことを考えてしまったりする。

憧れの「北欧ぐらし」を実現した夫婦

 そんな夢のような生活を突如始めた夫婦を描いたのが、漫画『北欧ふたりぐらし』(だたろう著/白泉社)だ。  

 物語の主人公は、ふゆ美と陽平のふたり。付き合いたてのカップルだ。口下手で気が弱いふゆ美は仕事でも上司にひどく叱責され、なかなか仕事もうまくいかず、残業続き。同棲している陽平と一緒にいるときだけは気持ちが穏やかになるが、自分が残した仕事のせいでふたりの時間も大切にできずにいる。

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 ある日の夜、ふゆ美と陽平がテレビを見ているときに、偶然スウェーデンの暮らしの特集が始まった。そして、ふたりはスウェーデン人が大切にしている「フィーカ(コーヒーやお菓子を楽しむ時間のこと)」という文化や、夕方4時には帰宅して家族との時間や趣味の時間を楽しんでいる暮らしぶりを知って目を丸くする。

 スウェーデンの生活を目の当たりにしたふゆ美は、思わず「陽平さんとスウェーデンで暮らしたい」とこぼす。そして、陽平も「暮らそう」と即答する。実は、陽平はその前日に、偶然スウェーデン転勤の打診をされていたところだったのだ。運命的なめぐり合わせにより、彼らはめでたく結婚、ふゆ美は辞職し、ふたりでスウェーデンへと発ったのだった。

思わずお腹が空いてしまうスウェーデンの食べ物

 ストックホルムの美しい自然と、どこを切り取っても絵になる街並み、彼らの異国での暮らしは繊細で美しい筆致により描かれ、読んでいるだけでもなんだか肩の荷が下りてゆったりとした気分になってくる。

 作中では、スウェーデンの文化や豆知識、その土地の気候から名産物まで網羅的に描かれていて、スウェーデンの暮らしに興味がある人にとってもいいガイドブックになりそうだ。特に、彼らが食べるスウェーデンの食べ物は美味しそうで、読んでるとついお腹が空いてきてしまう。作中に登場するのは、ミートボールに真っ赤なジャムという、一見するとミスマッチに見える珍しい組み合わせ。だが、ふゆ美は口にした瞬間、「Gott!」(スウェーデン語でおいしいという意味)と叫ぶ。さらに、スウェーデンのソウルフードであるホットドックを、人々が森の中で作っている描写も魅力的だ。香ばしいソーセージを焼いているシーンは、思わず食欲をそそられる。

 この作品を読めば、誰もがスウェーデンの暮らしに魅了されるだろう。そして、同時にふゆ美と陽平の、なんだか初々しくて可愛らしい夫婦の虜にもなっているはずだ。

 異国の地で、幸せそうに暮らすふたりの姿は、それだけでなんだか癒し効果がある。5巻でついに完結となる本作。せわしない日常にこそ、一気読みしたい作品だ。

文=園田もなか

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