17年間一緒にいた愛犬が余命1カ月。たくさんの幸せをくれた家族に、伝えても伝えきれない「好き」と「ありがとう」【書評】
公開日:2026/1/11

大切な家族の一員であるペットとの死別。考えたくないことだが、動物を飼うと決めたら避けては通れず、そのときが必ず訪れるということを覚悟しておかねばならないことだ。『アルへ』(あるた梨沙/KADOKAWA)は、17年間一緒に過ごしてきた愛犬との別れを描いた作品である。
その出会いは、飼い犬が出産して仔犬のもらい手を募っていたと思われる場所でだった。元気に走り回るたくさんの兄弟犬がいるなか、大人しい性格のせいか、引き取り手が決まらず「あまりもん」と言われる一匹の仔犬がいた。遠慮がちに近づいてきたその子と目が合ったことで家族として迎えることになる。
「アル」と名付けられた仔犬との生活が始まり、やがて17年の月日が経つ。すっかり老犬となったアルは耳も目も悪くなり、だんだん体重が減っていく。そして遂に医者から余命1カ月と告げられるのだった。
本作のセリフはすべて、飼い主がアルに対して思ったことと、アルへ語りかける言葉のみになっているのが特徴的だ。苦しんでいるアルはどうしてほしいのか。もう少し頑張ってくれるのか。もっと一緒にいたいと思うのは飼い主のエゴか……。答えのせない自問自答を繰り返す飼い主の姿が、ペットを看病し看取った経験のある人にとって、このどうにもならない無力感と葛藤が痛いほど伝わってくるだろう。かくしてアルは、余命宣告より3カ月も長く生き、そして旅立っていく。
ずっと一緒にいた家族との別れという悲しい物語の反面、アルはこの上なく幸せだったことが伝わってきて、静かな感動と温かみを覚えた。そして大きな悲しみを持った飼い主が、アルのいなくなった世界とどう向き合っていったのかは、ペットロスの観点から参考にもなるはずだ。
文=西改
