ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、絹田みや『友達だった人 絹田みや作品集』
公開日:2026/1/6
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年2月号からの転載です。

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?
(写真=首藤幹夫)
★今月のプラチナ本
絹田みや『友達だった人 絹田みや作品集』

光文社熱帯C 880円(税込)
一度も顔を見たことがない、本名も知らないまま、SNSでささやかな交流を続けていただけの彼女は、それでも間違いなく友達だった――(「友達だった人」)。余裕のない日常に疲れ、自分が2人くらい増えたら、と願った翌朝、本当にそうなった。仕事、家事、自由を分担して共同生活を始めるが……(「3人いる」)。その他「青色のうさぎ」に描き下ろしの「指先に星」も加えた、日々に息づく希望を描く短編集。
きぬた・みや●「みや」の名義で、同人活動を展開していた。その後「絹田みや」(下から読んだら「やみたぬき(闇狸)」)に改名して活動を続け、『友達だった人 絹田みや作品集』で単行本デビュー。
【編集部寸評】

「私はひとりじゃない」
名状しがたい関係性を描いた4編からは、人と人だけでなく、自身の内面と外面にも距離があることを知らされ、はっとする。表題作のSNS上の友達のように、離れているから知り得る事情もあり、「3人いる」では3人に増えた自身との生活の中で本来の姿を見出す。続く「青色のうさぎ」「指先に星」には、息苦しい状況におかれた自分が見失ったものを教えてくれる他者がいる。ひとりでは失ったことすら自覚できない。胸中に同居する友人がいれば、ひとりじゃない。そう勇気づけてくれる。
似田貝大介 本誌編集長。昨年末、紀田順一郎さんを偲ぶ会に参加した。幻想怪奇のみならず多分野に亘る偉業に感謝と敬意を。先人が拓いた道を大切に歩みたい。

ずっとうっすら疲れている
社会ですりへっていく彼女たちに自分を重ねる人は多いだろう。相手の本名すら知らないSNSだけの関係、仕事で手いっぱいでおろそかになる生活、周囲に合わせていくうちにわからなくなってしまった、自分のやりたいことや輪郭。ネット上の本書の感想を覗くとやはり共感の声が並ぶ。潜在的には同志がたくさんいるはずなのに、現実世界で出会えないのはなぜなのか。「指先に星」のように、気づいていないけれど分かち合える人は案外近くにいるのかも、と願わないとやってられない。
三村遼子 偏愛文学特集では、様々なジャンルで活躍中のみなさまの特別な一冊をご紹介。ベストセラーからディープな作品まで、プラチナ本とあわせてぜひ!

確かな余韻を残してくれる
収録された一編一編が確かな余韻を残してくれる短編集だ。見逃してしまいがちな、一瞬の出来事や感情をすくい取ってくれる。本作で描かれるのは、相手の気持ちを先回りして察し、その場の空気に合わせて自分を調整し続けてきた女性たち。気づけば自分の本心を見失い「自分という人間の輪郭がぼやけてしまったような気がする」とこぼす。しかし、彼女たちは違和感から目をそらさない。内側の声に耳を澄ませ、自分を取り戻していく姿に、私たちは背中を押されるはずだ。
久保田朝子 もちもちで、おいしいベーグルのお取り寄せにハマっています。あんこ、バター、チーズ、ジャムなど、毎回トッピングを変えるのも楽しい。

「友人のところにチェック入れても良いですか?」
「友人」の定義とは、何とも曖昧なものだと思う。申し入れや承諾が必須なわけではないし、連絡の回数によって決まるわけでもない。表題作の主人公もまた、SNS上でしかやりとりしたことのない人の葬儀に赴き、「友人」と記帳して良いものかと悩む。顔も、本名も知らないまま、SNSで連絡を取り合うだけの関係性。でもそこには確かな繋がりがある。投稿への反応に嬉しくなったり、しばらく更新がなければ心配したり。その心の交流に、二人はまさしく友であったと感じられる。
前田 萌 ヨガに通いはじめ、3カ月。筋力がついて代謝が良くなったのか、よく空腹を感じるようになりました。なんだか健康になったような気がします。

日々から抜け出したその先に
日々はつらい。しかしそれを知らぬ顔で過ごすこともできる。本作に出てくる登場人物はそんな人たちだ。何気ない日常を送ることができる。充実してはないけど、不満はない。一定の温度を保ちながら彼女らは生活を繰り返す。しかし、何かがきっかけとなって、それぞれが知らぬふりをしていた感情と向き合ったとき、大きく心が動きだす。「私/ここじゃない場所にいきたい」。彼女たちが何気ない日常から逸脱していく瞬間がキラキラとしている。この輝きに救われたような気がした。
笹渕りり子 何度目かの白湯ブームが来ています。自分でも手軽に作れるのに、コンビニで売っているペットボトルのものが美味い。たかが白湯、されど白湯。

いつかの私と、今の私へ
ああこの気持ち知ってる、がちりばめられた作品だった。友達と言えるほどよく知らないけれど実は気にかけているあの人のこと、理不尽に立ち向かえず悔しい思いをした瞬間の自分のこと、憧れと嫉妬の狭間にいる大切な友人のこと、遠巻きに見ているだけだったちょっと変わったあの人のこと……。いつかの景色、感情が呼び起こされ、そのときほしかった言葉がそっと寄り添ってくれる。希望ある優しいラストに思わず目頭が熱くなり、もう少しだけ頑張ろうという元気をくれる一冊。
三条 凪 今年もよろしくお願いします。連載「本棚探偵」が一冊のムック本として1月15日に発売です。総勢37名の皆さんの本棚を、ぜひ覗いてみてください。

きっと自分が見つかるはず
SNSでの関係性に救われたり、自信のなさから大事な友達を傷つけたりと、本書で描かれる登場人物たちが抱える想いには明確な名前がつけられない。ただ、そのどれもが一度は経験したことのある感情だった。自分でも言語化できていない感情をすくいあげ、その気持ちを優しく肯定する。作中の「人は物語の中に自分がいないか探してるんだって」の言葉通り、収録された4編すべての中に自分がいた。孤独な世界を一緒に歩いてくれる友達のようなマンガと出会えたことに嬉しさが広がる。
重松実歩 「偏愛」といえば、なにかの食べ物に一度ハマるとひたすらそれを食べがち。夏はポトフでしたが、この冬は常夜鍋。味も、常夜鍋という名前も好きです。

その気持ちに、自信をもって!
大なり小なり何かが、心の中で揺らぐ余地のない居場所を見つける瞬間、その瞬間が本作では描かれる。何か、はSNS上での緩やかな交流から生まれた“人との関係性”であったり、多忙な仕事の裏で考えるのをやめていた“人生の使い方”であったりして、そのどれもが一度は蓋をしようとした本心だ。そしてここでは、蓋を取り去るのは周囲の人々の言動なのだ。人からふと投げかけられる温かな後押しを見せることで、本作は読者を励ます。あなたの本心を肯定してくれる人も必ずいるよ、と。
市村晃人 飽きるまで寝た、という経験も昔はありましたが、今やどれだけ寝ても満足できない体になったようです。悲しい反面、布団にいると常に幸せです。
