2025年の漫画ランキング堂々の1位! 児島青『本なら売るほど』【受賞記念インタビュー】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2026/1/27

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年1月号からの転載です。

本なら売るほど』(1~2巻)
(児島 青/KADOKAWAハルタC)792~836円(税込)

脱サラした青年によって営まれている、小さな古本屋「十月堂」。そこには日々、様々な客が訪れる。思春期真っ只中の女子高生、夫に先立たれた未亡人、若き大腸がん患者……。彼らが手にする一冊の本が、その人生をほんの少しだけ豊かで、美しいものにしていく。

(読者アンケートコメント)
●本好きにはたまらない。もっともっと本が愛おしくなる(40代・女)
●本好きのツボを大いに刺激して、まるで連作短編集を読んでいるような世界観と満足感に溢れている(40代・女)
●本を通して人と人とが出会っていく、人間模様がとてもおもしろい(20代・男)

 2024年の今時分は、年明けに刊行されるデビュー作『本なら売るほど』1巻の準備に奔走していた頃だったという。

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「東京に呼んでいただき、神保町のホテルに泊まっていたのですが、ちょうど神田古本まつりのときで。そのとき古書店連盟さんが毎年出している古書店マップをいただいたのですが、まさか今年、そのマップの表紙を自分が描くことになるとは。2025年はびっくりすることばかりの1年でした」

 街の小さな古本屋「十月堂」を舞台に様々な愛書家たちが訪れる『本なら売るほど』は普段、マンガを読まない層からも大きな注目を集め、2025年4月には2巻目が刊行。そして2025年のコミックランキングでは堂々の首位に! 「本好きあるあるがめっちゃあって、首がもげるほど頷いた」(無回答)、「こんなにも本好きにぶっ刺さった作品も珍しい」(40代・女)と、作品に向けられた“好き”の熱量もはんぱない。

「『ダ・ヴィンチ』さんは本好きの人が読む雑誌。そうした方々に“そう! そう!”と同意していただき、好意を持っていただけたことが何より嬉しくて。書店さんや紙の本が減っていくなか、このマンガを“いい”と言ってくださる方々の存在は、本と、そこに本がある佇まいを求めている人が、ちゃんといるんだなということが可視化されたようで、数多の仲間に出会えたような気がして、すごく嬉しかった」

「はじめは古本屋さんとか、本に関わる話は描きたくないと思っていた」と話す児島さん。

「本が好きなので。自分の一番好きなものをマンガにしてしまうのはなんか嫌だなと、そこから逃げようとしていたのですが、観念して描いたのが、第1話『本を葬送る』でした。読切のつもりで描きましたが、連載として続くことになってしまい、でも描いてみたら、好きなことなのでやっぱり描けてしまって。というと簡単に描けてしまったみたいですが、けっしてそんなことはなく……」

 描くまで、そして描き出してからも、本を愛するゆえの葛藤は続いている。

「好きなものを仕事にするのはすごく幸せなことだと思いますが、そこには責任も出てくるし、何より自分だけの自由な楽しみだったものが失われてしまうのでは? という懸念がありました。たとえば本を読むとき、これはネタにできるんじゃないかという邪な目で読むようになってしまうんじゃないかとか。本とか読書って、すごく個人的なものじゃないですか。どう読むかも自由だし、そこに正解はない。そうした自分の葛藤のなかから出てくるものも、作品のなかに描くことができればなと」

ストーリーと本の関連性は小指でちょっとフックするくらい

「絵は“行間”を読み取ってもらえるくらいの濃すぎない密度にしたい」という。本棚を描くときは定規を使うが、本一冊、一冊はフリーハンドで描き、「古本屋にある本の、有機的な気配を出すようにしている」という。ⓒAo Kojima / KADOKAWA
「絵は“行間”を読み取ってもらえるくらいの濃すぎない密度にしたい」という。本棚を描くときは定規を使うが、本一冊、一冊はフリーハンドで描き、「古本屋にある本の、有機的な気配を出すようにしている」という。ⓒAo Kojima / KADOKAWA

「作中に出てくる作品も読みたくなる」(40代・女)という声もあるように、エイモス・チュツオーラ『やし酒飲み』、澁澤龍彥『高丘親王航海記』、森茉莉『恋人たちの森』など、実在の本と作中で出会うことができるのも醍醐味。

「“この本、おすすめです”というつもりで出してはいないんです。もちろん好意を持っている作品ではあるんですけど、“名著紹介”のようにはしたくなかった。各話のストーリーと出てくる本の関連性みたいなものは、ちょっと小指でフックするくらい。その塩梅を大事にしながら、登場する作品を選んでいるところがあります」

 第8話「生ける人々の輪舞曲」では、“とにかく面白い本をください”“読み終わるまで絶対に死ねないくらい”“長くて面白い本を”という客に、中島らも『ガダラの豚』を店主が薦める場面がある。そのセリフを言うのはがんを患い、これから入院し、手術をする若い女性客。店主はその事情を知らない。

「もし知っていたら、もっと優しげな生きる希望が持てる本を薦めると思うんです。血みどろの人が生きたり、死んだりする、こんな無茶苦茶な話をここに登場させたのは、自分が大きめの病気をしたときのことに思いが巡っていったから。手術後、痛くて、苦しくて、排泄すら他人様のお世話にならなければいけなかったとき、情けなさや羞恥心で一杯になったものの、それ以上に“この身体、強いな。こんなになっても生きてるんだ”って思った。一見、ミスマッチには見えるけど、生々しい生と死が出てくる『ガダラの豚』が意外にも彼女の背中を押すのではないかなと。お話の最後に、退院した彼女が、店主にお礼の品を持っていく場面がありますが、あれは『今夜、すべてのバーで』に著わされているようにボロボロになりながら、それでも飲んだ、それでも書き続けた、らもさんへの私なりのオマージュなんです」

本は強い。そこにある希望も そして現実も描いていきたい

「現代は何にでもレビューがあり、他人の評価を自分のものと錯覚してしまいがちですが、自分だけの好きと嫌いを持ちたいですよね。第3話『アヴェ・マリア』で描いた高校生のように、本と出会ってほしいし、傷ついてもほしい、失敗もしてほしい。殊に若い世代の方々に対してそう思います」(児島さん)
「現代は何にでもレビューがあり、他人の評価を自分のものと錯覚してしまいがちですが、自分だけの好きと嫌いを持ちたいですよね。第3話『アヴェ・マリア』で描いた高校生のように、本と出会ってほしいし、傷ついてもほしい、失敗もしてほしい。殊に若い世代の方々に対してそう思います」(児島さん)

「古本屋を舞台にしたのは、自分が好きだというのもあるけれど、そこにある本自体がすでに物語を帯びているから」と、児島さんは言う。

「でもそこにいる店主は、何十年も古書店の店主をやってきた生き字引的な人、人間的に熟成された人ではなく、少し未熟なところのあるこれからの人、その時代を生きている人にしたかった」

 そんな物語は「人生の側に本があるって素敵なことだと思った」(10代・女)と、デジタルネイティブ世代の心も惹きつけている。本とは読むだけでなく、そのしつらえ、背景、存在感も含めて《本》なのだということも、各話のなかで語られていく。

「読むのももちろん好きですけど、本という物体そのものに対して、すごくフェチがあるというか。私は読むのがあまり早くなく、つい積んでしまうのですが、背表紙を見ているだけで幸せと思うところがあって。本って、読む前と読んだ後、見方が変わったりするじゃないですか。読んでしまうと、自分のなかで点数が付いてしまったりするところがあるけれど、読む前のわくわく感が自分のなかに広がっていくあの瞬間もすごく素敵だなと」

 第12話「雲隠」には“永遠に読めない本”も登場してくる。

「作者の頭のなかにだけある、読めないものを想像する時間も尊いなと思って。本屋さんに行ったときも、“私はここにある本のほとんどを一生読むことはできないんだな”と絶望するんです。それでも本のなかにいると、大海に包まれたような気持ちになる。第9話『本の海の漂流者』でも描いたのですが、古本屋にある本は一度、誰かに買われるというハードルを乗り越えてきたものたち。本は強いなと思って。強いんだけど、一方で傷つき消えていく本もある。綺麗ごとだけでなく、希望を残しながら本の現実を描くことができたら、と思います」

 待望の3巻は2026年の春刊行だという。

「基本的に1話完結ですが、積み重ねていくことで、当初想定していなかった展開や、登場人物同士が繋がったりすることがありました。3巻でもこれまで出てきた人たちが再登場するかもしれませんし、そこで今まで見せなかった面を見せるかもしれません。そうした多面的な展開も楽しみにしていただけたらなと思います」

書籍あらすじ:イガラシダイ
取材・文:河村道子

こじま・あお●マンガ家。2022年9月にマンガ誌『ハルタ』97号に掲載された読切「キッサコ」でデビュー。『ハルタ』98号に読切「本を葬送る」を発表。同作は『本なら売るほど』と改題、連載化。本作が初のコミックスとなり、第2巻が25年4月に発売。

ダ・ヴィンチ 2026年1月号 [雑誌]

ダ・ヴィンチ 2026年1月号 [雑誌]

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本なら売るほど 1 (HARTA COMIX)

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