憧れのイケメン先輩に告白され有頂天になったのも束の間、始まったのは恐怖の束縛地獄。理想と現実のギャップをリアルに描いた物語【書評】

マンガ

公開日:2026/2/6

 誰でも一度は「理想の恋」というものを頭の中で思い描いたことがあるだろう。ドラマやマンガのようなロマンチックな恋を夢見て、いつか自分にも訪れるかもしれない幸せを想像する。だが『憧れのイケメン先輩が、束縛クズ男に豹変しました』(うみこ/KADOKAWA)は、そんな甘い幻想が一転、恐怖と幻滅へと変わることを赤裸々に描いた物語だ。

 主人公のユミは恋愛経験がほとんどない。社内で一目置かれるイケメン先輩・本村に憧れていたが、ある日突然、彼から告白されて交際が始まる。予想外の出来事に夢見心地で恋のスタートを切ったユミだが、幸せは長くは続かなかった。はじめは優しさで包んでくれていた本村の言動は、次第にユミの行動を制限する方向へ変わっていく。本村からの連絡には5分以内に返信せねばならず、男性の友人との交流は一切禁止、そして男性の連絡先は全て消去を強要するなど、常軌を逸した要求が積み重なっていく。

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 本作が突きつけるのは、“愛しているからこそ”という耳当たりのいい言葉で行われる支配と束縛の怖さだ。最初のうちは「私、愛されているんだ」と解釈しようとしていたユミも、やがて自分の自由を奪われていくことに違和感を覚え始める。それが日常となり、世界が徐々に狭められていき、いつの間にか抜け出せない「支配の沼」にハマっていたのだ。

 同時に、この物語は恋愛の本質を鋭くえぐり出す。ユミが憧れていた本村は、見た目は魅力的で外面もよく理想的に見える。自ら「面食い」というユミは、学生時代に付き合った相手や、自分に好意を持ってくれている男性の思いを受け入れられず、理想像に翻弄され、本村の本性を見抜くことができなかった。外見以外の評価軸を持てないユミの恋愛に対する未熟さも、理想と現実のギャップを生み出す原因としてリアルに描かれるのだ。

 理想的な恋愛とは何か? 読み手はユミの体験を通して「愛されること」と「自由であること」がまったく別のものなのではなく、実は表裏一体なのだと気づくだろう。

文=甲斐ハヤト

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