余命1年の魔法使い×奥手王子が紡ぐ切ないピュアロマンス『癒しの魔法は必要ですか?』【書評】
PR 公開日:2026/1/29

余命1年の魔法使い、傷ついた王子と出会って……という物語の導入を読めば、もしかしたらひどく悲しく重たい物語だと思うかもしれない。しかし、LINEマンガで連載中のウェブトゥーン『癒しの魔法は必要ですか?』(みじんこ:原作、鹿ノ子もよう:ネーム、ゆに:作画)は、そんな予想をいい意味で裏切り、クスっと笑えるコミカルな展開とピュアな魔法使いと王子とのロマンスに胸ときめく、読むと心が晴れやかになる漫画だ。
どんな傷も治してしまう癒しの魔法使いの夢は「海を見ること」
物語の主人公エリシアは、どんな傷も治してしまう癒しの魔法を使う魔法使いだ。彼女が生きているのは、魔女狩り後、魔法使いが人権を失い、貴族たちに「使役魔法使い」として所有物のように扱われる時代だ。彼女もまた、貴族のウィンドゲイル家で使役される魔法使いだった。

しかし、そんなある日、エリシアは突然の高熱を出して倒れてしまい、診療所へと運ばれる。そこで判明したのは、彼女の魔力が暴走していて、いずれ魔法が使えなくなってしまうということ。それはつまり彼女の死を意味していて、余命は1年といったところだろう、という残酷な事実だった。彼女の母親も同じように魔力が暴走して亡くなっていた過去があり、彼女は自分もまた同様の運命を辿るのだと悟ってしまう。エリシアは、どうせ死ぬならまだ一度も見たことがない海を見たいと考える。彼女が海を見たいと強く願うのは、亡き母の故郷が海の向こう側にあり、母から海が「自由な場所」であると聞いていたためだ。
ウィンドゲイル家から逃げ出すことを決意したエリシアは、ウィンドゲイル家のアンジェリカのコートと財布を盗み、一人姿を消したのだった。

彼女を所有物としてしか扱わないアンジェリカから逃げ出せたことに安堵しつつも、エリシアは思っていた以上に世間知らずで、読んでいる側はまたハラハラさせられてしまう。結局、乗った汽車の車掌にお金をぼったくられてしまい、海からは遠く離れた内陸の土地で一文無しに。そんな絶望的な状況で現れたのが、戦場から帰還したばかりのルナリア王国の第一王子、ハーヴィー・アッシュウッドだった。

「では服を脱いでください」王子との出会いで物語の糖度が一気に上がる!
彼は王子でありながらも前線に立ち、過酷な戦場で戦い続けている。エリシアは顔にケガをしていた彼に、治療をするからお金をくださいと懇願する。物乞いの類かと思ってお金を渡したハーヴィーだったが、彼女の魔法のすごさを目の当たりにして、このまま逃すのは惜しいと考える。
そして、ここから一気に物語の糖度が上がってくる。世間知らずで、治療のために当然のように服を脱がそうとするエリシアに、赤面しながら慌てふためくハーヴィーの姿が可愛らしい。エリシアのピュアでまっすぐで天真爛漫な姿は、見ているだけで幸せな気持ちになるし、誰もが奪われる青い瞳は、フルカラーだからこその美しさをもって読者の心も奪ってくる。彼女の魅力的な人柄と美しい容姿は、そりゃハーヴィーも夢中になってしまうだろうと思わせる説得力があるのだ。

どうやらハーヴィーはエリシアに海を見せに行こうと考えてくれているらしい。残り1年の人生、エリシアが王子とともに幸せな日々を送ることができれば万々歳だ……とすんなり物語が終わるわけもなく、一人の男性の登場によって不穏な気配が訪れる。

それが、彼女が逃げ出した貴族のウィンドゲイル家の当主、ガリアードだ。ウィンドゲイル家ではエリシアの失踪が大問題となっており、ガリアードは当主という立場でありながら、自らエリシアを探しに出向こうとする。エリシアのことを所有物としてしか考えていなかったアンジェリカとは違い、ガリアードはエリシアのことを本気で心配しているようだ。エリシアを「大切な存在」だと言うガリアードだが、それが家族や友人としてなのか、それとも恋愛的な感情なのか、それはまだわからない。少なくとも、他の貴族のような冷酷な態度を持っているわけではないことは確かだ。
とはいえ、彼女が連れ戻されてしまえば、海を見る夢は叶わず、残りの短い人生も使役をして終わりになってしまう。果たしてこれからエリシアの人生はどのような運命を辿っていくのか、続きがとても気になる作品である。
文=園田もなか
