ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、はらだ有彩『帰りに牛乳買ってきて 女ふたり暮らし、ただいま20年目。』
公開日:2026/2/6
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年3月号からの転載です。

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?
(写真=首藤幹夫)
★今月のプラチナ本
『帰りに牛乳買ってきて 女ふたり暮らし、ただいま20年目。』

はらだ有彩 柏書房 1540円(税込)
ふたりで楽しく暮らすことにしました、それも一生。大学時代にいつの間にか始まったルームシェアは、気が付けば20年続いている。怒って泣いて笑い合う、女同士の「普通」の生活が、ありのままに描かれる。「普通」が溢れる社会で、ゆらぎ戸惑う心にそっと寄り添う、著者初のコミックエッセイ。「あなたの住む街の隣の隣の隣のどこかの街で、こんなルームシェアが繰り広げられている」(「はじめに」より)
はらだ・ありさ●1985年、兵庫県生まれ。テキスト、イラストレーション、テキスタイルをつくるテキストレーターとして、雑誌・ウェブメディアなどで活躍。著書に『日本のヤバい女の子』『百女百様 街で見かけた女性たち』『女ともだち ガール・ミーツ・ガールから始まる物語』など。
【編集部寸評】

続柄よりも間柄
当然のごとく決まっている、とされる物事がいくつもある。決定事項に従うのは楽だ。ただ、本当に楽なものは、苦労してでも手に入れたい。矛盾しているけれど、かけがいのないことだと、本書のふたりは知っている。無理に抗わず、ごく自然に「一緒に暮らしたいから一緒に暮らしてきた」と語る。些細な日常が描かれ、ときに憤って喧嘩し、考え直して矛を収め、不安を抱きながらも未来を想う。「人生とは大義ではなく」積み重なった時間と悟る。性差や続柄を越えた、その繋がりに魅かれる。
似田貝大介 本誌編集長。家族が帰省したため、年末年始をひとりで過ごした。羽を伸ばそうと思ったら大晦日に風邪をひき、寝正月に。けっこう寂しかった。

一緒に住んでるだけなのに
自分が選んだ人と暮らし続けるのは、楽しいことばかりではない。相手の生活リズムは尊重したい、でも自分が窮屈になるのはイヤだ。その折り合いをつける中での「あるある」が明るく描かれる。しかし本作はそれだけでは終わらない。彼女たちの暮らしが社会的にはいかに危ういバランスで成り立っているかが、そこここに挟み込まれる。男女という組み合わせなら問題にならないことが壁になってしまう社会設計が、どうしていつまでたっても変わらないのか、ますますわからなくなる。
三村遼子 凹んだ時にルームメイトがケアをしてくれるのは、「はりーのコンディションが悪いと結果的に迷惑だから」。長く暮らしていく秘訣だと思います。

共通点と相違点とが混ざり合う日々
「ルームシェア… それは文化と文化の出会い 習慣と習慣の出会い すなわち共通点と相違点が混ざり合い変形していく日々である」。この一言に、2人で暮らすことの困難さも楽しさも詰まっているんだと思う。相手によって変わっていく自分を愛おしく思えるのか、その相手が女性だったというのが本作だ。男女の暮らしではなかった困難さもあるが、日常の一部として軽やかに乗り越えていく。そういった何気ない日々を作るのは、自分の選択の積み重ねだと、実感させてくれる。
久保田朝子 ヤンキーによる恋愛リアリティショー『ラヴ上等』を夜な夜な見てしまう。次々に生まれるパワーワード、生きている言葉の数々に圧倒される。

それでも、共に暮らすことを選び取る
「女ふたり暮らし、ただいま20年目。」という言葉に、率直に抱いたのは羨ましいという思い。しかし、すぐに浅はかだったと思い知る。関係性に疑問を持たれたり、物件探しが難航したり、女ふたりであることで世の中のレギュレーションにさらされる現実に胸がきゅっとする。「私たちのくそしょうもない愛おしい生活は、常に社会のあり方にみっちりと取り囲まれている」。大学時代と同じように夜道をふたりで散歩する、そんな彼女たちが“選び取った"日常の尊さに気づかされる。
前田 萌 あまりの寒さに、なかなかこたつから出られない日々が続いています。こたつに入りながら、温かい飲み物と甘いものでほっこりするのが幸せです。

他人と住むのが楽しいだけなわけがない
一度は憧れる友達同士のシェアハウス。「楽しそう!」と本作を読み始めたものの、次第にこの生活がただ「楽しい」だけで成り立っているわけではないことを知る。お互いの価値観が違うことでたくさん揉めて、解決してもしなくても一緒に住み続ける。それに性別は関係なく、そしてどんな関係性でも起こりうることだ。「ケンカしてでも……一緒に住みたいから……」。目の前の相手に対してそう思えるか、反対にそう思わせる振る舞いができているか。自身も襟を正される思いだった。
笹渕りり子 板垣巴留先生の特集を担当。巴留先生によって、読者のペットを「ヒト化」していただく豪華な企画では個性豊かなペットたちが登場。必見です!

続けていく、という選択
変化なく長い期間続いている物事には、意思が介在していないような気がしてしまう。日々の生活はその最たるものではないか。だが、「一緒に暮らし続けるということは、それを選び取り続け、決め続ける行為だった」の一節に、そうか、私は選び取った結果として今ここにいるのだな、と目が覚める思いがする。色々なものに雁字搦めになって動けない気がしていても、生活は、人生は、いつだって自分が選び取るものなんだ。そんな当たり前で大切なことを思い起こさせてくれる一冊だった。
三条 凪 ずっとハマっている『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』がついに映画化! P175にて監督の亀山陽平さんのインタビューを掲載。ぜひご覧ください!

「いま」、何がしたいか
大雑把なわりに心配性なので、貯金額やキャリアプランなどなど、将来の心配事を挙げればキリがない。しかし、本書に出てくるふたりが一緒に住むことへの不安や迷いの日々を経て、最後にたどり着く「……ていうか住みたけりゃ住んだらいいよな」の軽やかな一言に衝撃を受ける。あれこれ枷を押し付けてくる予想のつかない社会や将来に対して、いまの感情を軸として何かを選択するという、そのしなやかな強さ。何を優先すべきか、自分で分かっているということはとても輝いて見える。
重松実歩 心配性にもかかわらず、「ノリと勢い」に人生の選択を(ほぼ)すべてゆだねています。月イチでやってくる、「やるんじゃなかった!」の夜が恐怖。

違うのは、呼び名だけ
「女ふたり暮らし」とタイトルにあるくらいだから、女ふたりなりに愉快な、不愉快な、特別なことがあるのだろうと思い読み始め――この無意識の期待にこそ、本書は向かい合っていると気が付いた。あまりにも、「普通」だった。ご飯の予定を確認し合い、一緒に出かけ、先の生活を心配し、顔を合わせれば一言くらいは交わす。夫婦や恋人などと名の付いた関係と何も変わらない。違うのは、関係性についた呼び名。その呼び名の差一つの影響力と、無意味さを、同時に読者に教えてくれる。
市村晃人 給食で毎日供されていた頃から、牛乳単体を好んでは飲みません。でもなぜか常備したくなり、なぜか消費されます。牛乳って、何なのでしょう。
