「吸血鬼や獣人といったネタも検討した」海辺の街を舞台に、“竜人”の少年と父を亡くした少女の同居生活を描く『汐風と竜のすみか』【縞あさとインタビュー】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

PR 公開日:2026/2/16

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年3月号からの転載です。

 海辺の街を舞台に、“竜人”の少年と父を亡くした少女の同居生活を描く『汐風と竜のすみか』。宝島社『このマンガがすごい!2026』オンナ編の第5位にランクインするなど、今、注目度急上昇中だ。作者の縞あさとさんに創作の舞台裏をうかがいながら、現代ファンタジーと少女マンガの王道が融合した作品の魅力を詳しくご紹介する。

●キャラクター紹介
墨浦天辰(すみうら てんしん)
竜の特徴と能力を持つ“竜人”。高校2年生。墨浦神社の養子で、義理の兄がいる。家出をして瑞花の叔父・慈治の家に下宿中。不器用な性格だが、優しく面倒見がいい。

円山瑞花(まるやま みずか)
高校2年生。父を亡くし、竜人研究所で働く叔父に引き取られる。明るく前向きで、新天地で頑張ろうと意気込み、天辰のことも放っておけない。

人と対立せずに街に暮らす亜人を描きたかった

「異種間交流的なものを描きたかったんです」

 2024年10月より『LaLa』で連載中の現代ファンタジー『汐風と竜のすみか』が今、急速に人気を拡大している。作者の縞あさとさんは、“竜人”の少年と父を亡くした少女の同居生活、という読者を惹きつけてやまない本作の主題の出発点をそう語った。

「何かしら亜人を出したいと考えていました。私は以前から『ポーの一族』や『夏目友人帳』など、亜人や人外、人ならざるものが出てくるマンガが好きで」

 本作連載前には、吸血鬼や獣人といったネタも検討したという。

「でもそうすると、どうしても人間と対立してしまうんですね。この作品では、亜人ではあっても、街の中で普通に人に交じって暮らしていてほしいなあ、と。モンスター的なものではない、“神様”に近い“竜人”という存在だったら、それができるかもしれないと思いました」

『汐風と竜のすみか』の物語は、父の死によって独りになった高校生の瑞花が、叔父・慈治に引き取られ、竜人伝説のある海辺の街・篭崎に引っ越してくるところから始まる。叔父の家には、瑞花と同い年の竜人・天辰が下宿していた。

「篭崎の外で暮らしてきた瑞花には、竜人についてあまり知識がありません。天辰と出会って、竜人特有の性質や能力に驚いたり不思議に思ったり、彼の翼に初めて触れたり。そうして徐々に、天辰を、竜人を知っていきます」

 読者もページを繰りながら、瑞花の目と心に導かれ、竜人の存在に惹かれていく。第1話は、天辰の竜人としての力が圧倒的な輝きを放つ印象的なエピソードで締めくくられる。竜人研究所で働く慈治が離島へ調査に出たまま戻らず、瑞花は叔父まで喪うのではないかと取り乱してしまう。天辰は瑞花のために慈治を無事に連れ戻すべく、普段は見えない背中の翼を広げ、海上へと飛び立つのだ。

「あれは私も一番描きたいシーンでした。最初のネーム(原稿を描く前のラフのようなもの)は、絵をまばらにしか入れていなかったのですが、あそこはしっかり描いたのを覚えています。第1話は、あのシーンを中心に組み立てたんです」

 瑞花は、天辰と暮らしながら、篭崎という街についても知っていく。街の人たちにとって竜人の存在は当たり前であること、天辰の実家の墨浦神社、天辰が人目を気にせず自由に飛べる夜の海……。

「篭崎を描くために熊本県の天草に取材に行きました。海辺の街にしたのは、竜神が水や海と関わりが深いからですが、私は海の近くに住んだことがないので、憧れもありました。海辺は私にとって、少しファンタジーなんです」

第1話。天辰が慈治を助けるため飛び立つ。「『僕のヒーローアカデミア』などジャンプマンガが好きで、動きのある絵の描き方は影響を受けているかもしれません」(縞さん)。
第1話。天辰が慈治を助けるため飛び立つ。「『僕のヒーローアカデミア』などジャンプマンガが好きで、動きのある絵の描き方は影響を受けているかもしれません」(縞さん)。

“竜人”のいる街とは?

竜人伝説のある街・篭崎。大昔に土地の娘と竜が結ばれ、以来、篭崎にルーツを持つ者の中には稀に、竜とおぼしき特徴や能力を備えた竜人が生まれる。墨浦神社は竜人を生み出した竜を祀り、世界的にも有名。街には竜人研究所もある。住人は竜人の存在に慣れているが、鱗が縁起物だったり、竜のご利益を信じていたりと、神的生物の子孫として特別視もしている。

竜のご利益を信じる、和菓子屋のおばあちゃんの頭を撫でてあげる天辰。
竜のご利益を信じる、和菓子屋のおばあちゃんの頭を撫でてあげる天辰。
天辰の実家の墨浦神社。観光客も多く賑わっている。
天辰の実家の墨浦神社。観光客も多く賑わっている。

【天辰と同世代の竜人たち】

真渕櫂理(まぶち かいり)
天辰と紅と同い年で、きょうだいのように育った竜人。天辰とは彼の家出をきっかけに絶交。実家は街一番の高級旅館。人間に対して優しく友好的に見えるが、実は気性が荒い。

帆苅 紅(ほかり こう)
天辰と櫂理ときょうだいのように育った竜人。瑞花と同じクラス。周りを気にしない潔い性格で、竜人関係者以外とはつるまない。小さい頃から慈治が大好き。

竜人と人、それでも瑞花と天辰は似た者同士

 ファンタジーという設定はこれまでも、縞さんの作品において常に重要な位置を占めてきた。

「大学時代から本格的にマンガを描き始めて、1作目は普通の現代ものだったんですが、2作目にはもうファンタジー要素を入れていました。ストレートな学園ものだとうまく話を広げられなくて、ついファンタジーを交ぜたくなっちゃうんです」

「交ぜた」ことによって生み出されたのが、『魔女くんと私』や『君は春に目を醒ます』などの作品だ。前者は転校生ものと“男の魔女”、後者は片想いとコールドスリープの融合。いずれも、ファンタジーと、いわゆる少女マンガの王道が一体となり、縞さんならではの世界を作り出している。

『汐風と竜のすみか』においての少女マンガの王道は、同居ものという点だろう。

 叔父の家にやって来た瑞花は、天辰とうまくやりたいと思うが、「うざい」とそっけない態度を取られてしまう。それでも瑞花は彼を放っておけず、何かと構おうとする。

「連載前の設定では、瑞花と天辰の性格が逆だったんです。天辰がどちらかというと陽キャで、瑞花は父の死を引きずっていました。描いていくうちに、いつの間にか瑞花は明るくて図太い子に(笑)」

 一方、天辰については……。

「彼には子どもっぽさがありますよね。例えば、第2話の冒頭の瑞花と天辰が一緒に登校するシーン。天辰は瑞花のバイクの後ろに乗せてほしくて、自分のヘルメットを用意している。でもバイク通学はしないよと言われてガッカリ(笑)。細かいエピソードですが、天辰のかわいいところがうまく表現できたかなと思っています。瑞花も、彼の子どもっぽさを感じるから、放っておけないのかもしれません」

第2話。天辰のかわいさが表現されている場面。彼は瑞花のバイクに乗りたくてヘルメットを用意していた。
第2話。天辰のかわいさが表現されている場面。彼は瑞花のバイクに乗りたくてヘルメットを用意していた。

 瑞花は、天辰との日々を重ねるうちに、次第に彼の不器用な優しさや面倒見の良さに気付いていく。二人の心の距離が近づく過程は本当にときめきに満ちているのだが、中でも第4話は心に残る。天辰が、子どもの竜人だけが罹る「竜子熱」で高熱を出して倒れてしまう。寝込む彼の隣に座り、瑞花は言う。“自分と天辰は同じ”と。

「瑞花も天辰も、慈治に受け入れられて今の家に暮らしています。でも、親ではない慈治にずっと頼るわけにはいかない。ここでは自分はよそ者なんだ。そういう居場所のなさ、身の置き所のなさを、二人とも抱えていて。二人は似た者同士なのだと思います。だからお互いに、だんだんと心の内を明かせるようになるんですね」

第4話。竜子熱で寝込む天辰は、強がる言葉と裏腹に、甘えるように瑞花に尻尾を巻き付ける。「ここにも天辰の子どもっぽさが出ていますね」(縞さん)。
第4話。竜子熱で寝込む天辰は、強がる言葉と裏腹に、甘えるように瑞花に尻尾を巻き付ける。「ここにも天辰の子どもっぽさが出ていますね」(縞さん)。

自分自身を大切にしてほしい 互いに願う二人

 瑞花と天辰の関係性の上で極めて大切なのは、瑞花が、竜人だからといって決して天辰を特別視しないことだ。それがよくわかるのが、第2話。瑞花は、天辰の体から落ちた鱗を縁起物と言って拾う同級生を見て、思わず止める。「わ 私たちだってさあ 抜けた髪の毛とか剥がれたかさぶたとか他人に持ってられたら嫌じゃん…?」。

「このシーンを描いて、私自身も、『ああ瑞花ってこういう子なんだ』と思いました。篭崎の住人は、竜人を敵視したり迫害したりするわけではありません。でも篭崎の慣習は、外から来た瑞花から見ると違和感がある。住人は、自覚のないまま天辰にちょっとした犠牲を強いたり、人に対してならやらないことをやったりするんですね。瑞花は、そういうことに気付いてモヤモヤできる子なんです」

 天辰自身も、街の人の慣習や態度を仕方がないと受け入れているところがある。自分には竜人の能力があって体も頑丈なのだから、我慢できる、平気だ、と。

「瑞花は、天辰が自分自身をないがしろにしていると心配なんです。一方で天辰も、鱗の騒動のときのように、周りとぶつかることを厭わない瑞花に危なっかしさを感じている。二人とも人を思いやって自分のことが疎かになり、でもそういう自分を棚に上げて(笑)、相手にはもっと自分を大切にしてほしいと思っている。やっぱり二人は似た者同士ですね」

第2話。天辰の鱗を拾う同級生を止める瑞花。この後、瑞花は学校で“ボッチ”になってしまう。「今後、この同級生と瑞花の仲直りも描きたいです」(縞さん)。
第2話。天辰の鱗を拾う同級生を止める瑞花。この後、瑞花は学校で“ボッチ”になってしまう。「今後、この同級生と瑞花の仲直りも描きたいです」(縞さん)。

 瑞花と天辰は、お互いを友達かと問われると、ただの「同居人」と答える。友達という言葉はむず痒く、「同居人」のほうがしっくりくるのだと、瑞花は言う。二人にとって「同居人」は、どういう意味を持つのだろうか?

「照れ隠しのような気がします。一緒にいたくているんじゃなくて、同居人だから便宜上一緒にいるんだ、みたいな。同居人という言葉を免罪符にしているというか、立場を利用しているというか。同居人なんだから相手におせっかい焼いてもいいじゃん、とお互いに思っているんじゃないでしょうか」

 ストーリーが進むに従い、篭崎での瑞花の世界も広がっていく。天辰と幼い頃からきょうだいのように育った幼馴染みの竜人、紅と櫂理とも関わるようになる。

「人間ぎらいの紅、竜人のイメージアップのために周囲に親しみやすさをアピールしつつ心は許していない櫂理、人と距離をおこうとする天辰というように、人との接し方に差異を持たせて3人のキャラクターを作りました。櫂理は瑞花が好きみたいなポジションにも置けたんですが、描いてみたらまったくそうならず、天辰が好きすぎるこじらせキャラに(笑)」

第6話。瑞花は、自分自身を大切にしてほしいと、天辰に気持ちをぶつける。瑞花によって、天辰の心にも変化が訪れる。
第6話。瑞花は、自分自身を大切にしてほしいと、天辰に気持ちをぶつける。瑞花によって、天辰の心にも変化が訪れる。

 瑞花は、彼らとも関係を深めていく。

「同級生から竜人キラーと言われているかもしれません(笑)。同じ竜人同士でありながら、人間に対するスタンスの違いや、天辰の家出などいろいろな事情から、3人はギスギスしてしまっていました。そういった彼らの設定は、当初からあって。そこに瑞花が入ることで、それぞれの関係性が修復したり、変化したりするというのも、この作品で描きたいと思っていたことの一つでした」

 もちろん瑞花と天辰の今後も楽しみにしていてください、と縞さん。

「コミックス収録前の第12話では、瑞花と天辰が二人だけで瑞花の地元に遠出します。いよいよ同居人の関係にも変化があるかもしれません。篭崎は架空の街ですが、もしかしたらどこかにあるのかもしれないなんて感じながら、『汐風と竜のすみか』の世界を楽しんでいただけると嬉しいです」

取材・文:松井美緒 ©縞あさと/白泉社

第6話。瑞花の叔父・慈治が大好きな紅。慈治と同じ形の、瑞花の眉を気に入っている。「周囲を気にせず自由に生きる紅は、すごく描きやすいキャラクターです」(縞さん)。
第6話。瑞花の叔父・慈治が大好きな紅。慈治と同じ形の、瑞花の眉を気に入っている。「周囲を気にせず自由に生きる紅は、すごく描きやすいキャラクターです」(縞さん)。
第8話。絶交していた櫂理と天辰の仲直りを助ける瑞花。櫂理は天辰が好きすぎて瑞花を敵視していたが、この後仲良くなり始める。
第8話。絶交していた櫂理と天辰の仲直りを助ける瑞花。櫂理は天辰が好きすぎて瑞花を敵視していたが、この後仲良くなり始める。

【少しずつ近づく瑞花と天辰の距離】

1.同居人の天辰がいれば寂しくない

同居当初はそっけない態度を取っていた天辰だが、次第に瑞花に優しさを見せるようになる。鱗の騒動後、クラスでボッチになってしまった瑞花と一緒にお弁当を食べてあげたり、瑞花に敵意を向ける櫂理から守ったり。友達はいなくても、同居人の天辰がいるから寂しくないと、瑞花は感じるようになっていた。

違うクラスなのに、昼休みには瑞花を見つけて隣でお弁当を食べる天辰。ちなみにお弁当は天辰が作っている。
違うクラスなのに、昼休みには瑞花を見つけて隣でお弁当を食べる天辰。ちなみにお弁当は天辰が作っている。
墨浦神社で、櫂理から瑞花を守る天辰。天辰が大好きな櫂理は、天辰のそばにいる瑞花に嫉妬して詰め寄っていた。
墨浦神社で、櫂理から瑞花を守る天辰。天辰が大好きな櫂理は、天辰のそばにいる瑞花に嫉妬して詰め寄っていた。

2.身を挺してでも瑞花の危機を救う天辰

瑞花は、天辰と一緒に訪れた竜人研究所で、幼い竜人の子・大珠と出会う。ある理由から、彼女は無理矢理飛ぼうとした大珠と共に空から落下。しかしすんでのところで天辰が現れる。「ごめん 巻き込んで…っ」と言う瑞花を抱いたまま、天辰は地面に激突。人より頑丈とはいえ骨折してしまった天辰。自身が傷付いても瑞花を救いたかったのだ。

瑞花をかばい、自身が下になって地面に落ちた天辰。二人を見た大珠には「いちゃいちゃしてる…」と言われてしまう。
瑞花をかばい、自身が下になって地面に落ちた天辰。二人を見た大珠には「いちゃいちゃしてる…」と言われてしまう。

3.同居人だから世話を焼きたい、大切にしたい

第3巻に収録予定の第10話では、瑞花と天辰が櫂理の旅館をお手伝い。瑞花は、竜人マニアの泊まり客から天辰をかばおうとするが、逆に天辰はそんな彼女を、自身の竜の鱗と翼をさらすことも厭わず守る。天辰は瑞花に言う。「嫌なんだよ あんな奴にお前が触られるの………同居人として」。友達ではなく同居人。でもだからこそ、瑞花と天辰は互いを大切に思う。

泊まり客から瑞花を守る天辰。この後、天辰は竜人のことを考えてぼーっとしている瑞花の頬をつまんだりも。
泊まり客から瑞花を守る天辰。この後、天辰は竜人のことを考えてぼーっとしている瑞花の頬をつまんだりも。

汐風と竜のすみか』(1~2巻)

縞 あさと 
白泉社花とゆめCスペシャル 各770円(税込)
父を亡くし、叔父に引き取られた高校生の瑞花。海辺の街にある叔父の家には、同い年の“竜人”・天辰が下宿していた。二人の不器用で少し不思議な同居生活が始まる。

しま・あさと●2008年、第48回LMGフレッシュデビュー賞を受賞し、10年に「シザーリセット」でデビュー。現在、『LaLa』で『汐風と竜のすみか』を連載中。他の作品に『君は春に目を醒ます』など。

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