55歳の独身マンガ家が、ある日突然小学生の娘の父親になったら…。50代から始まるリアルな子育て体験マンガ
公開日:2022/8/23

50代も半ばになったある日、少し前までアカの他人だった小学生の子どもと2人暮らしをすることになったら、あなたはどう感じるだろうか。
『父娘ぐらし 55歳独身マンガ家が8歳の娘の父親になる話』(KADOKAWA)は、50代にして子どものいる女性と結婚し、思いもよらず8歳の娘と2人暮らしをすることになったマンガ家・渡辺電機(株)さんが描くリアルな子育てマンガである。
50代の独身マンガ家が「子育てをする側の人」に


著者は、大阪で仕事をする妻とすぐに同居するわけにはいかず、半年ほど東京と大阪に分かれて別居生活をすることに。そこで問題なのが娘の存在。小学生のアユは発達障害があり、年度途中の転校は学校に馴染めないリスクが高い。ならば4月のクラス替えにあわせてアユだけ先に東京へ――――。
そんなことがきっかけで、少し前までアカの他人だった50代半ばの著者と小学3年生の2人暮らしが始まる。
独身時代は、競馬、音楽、古本などの趣味を楽しみながら自由気ままに生き、自分が食べられる分だけ働いて、ひとりでゆっくり老いていこうと考えていた著者。当時は「子連れはうるさい」と子育て家庭を疎ましく思っていたそうだが、娘のアユと暮らすようになってからは「子育てをする側の人」になり、世界が変わったのだとか。
50代の子育ては本当に大変!


2人暮らしを始める前は「面白そう」と意気込む余裕もあったそうだが、いざ始めてみると、慣れない家事と子育てに忙殺される毎日。24時間いつでも好きな時に描いていたマンガも、今は思うように時間が取れない。そのイライラを娘のアユにぶつけてしまうことも…。
体力や気力は曲がり角を迎え、仕事の勢いも減速しがちな50代。そんななか、娘の言動に一喜一憂しながら、痛々しいほど疲れ果てていく著者――。そこで気づくのは「子ども1人に費やす時間とお金と体力と気力がいかに膨大か」ということだったという。
「父親」という新しい扉


しかし、この“小さな生き物”とずっと一緒に生きていくことを決めたのは著者自身なのである。弁当作りや娘のアトピー対策、学校の保護者会でのママ友ネットワークなど、娘の用事をひと通り経験していくうちに、娘のアユの存在は著者にとって「何ものにも代えがたい宝物」になっていく。
本書を後半まで読み進めていくと、アユが歯医者で痛い目にあっていないかと心配で涙を流す場面が描かれるなど(本人はケロッとしているのだけど)、父親としての愛情と責任感を感じさせる場面がちらほら登場する。
なかば強引かもしれないが、娘のアユの存在が、著者の「父親」という新しい世界への扉をこじあけたのかもしれない。
子育ての驚き、苦労、喜びとは
「少し前までアカの他人だった小学生と2人暮らし」というのは特殊なシチュエーションかもしれないが、本書には、これまで自由奔放に生きてきた55歳の独身マンガ家が父親になるまでの驚きと苦労、喜びが描かれている。子育てで感じたド直球の本音に、ベテランのマンガ家ならではの俯瞰した目線が加わり、子育て系のコミックエッセイとしても、1冊のマンガとしても、繰り返し読みたくなるような魅力がある。
娘のおねだりに冗談で切り返すなど、父娘のやりとりは漫才コンビのようで、ともすれば悲壮感が漂いそうな50代の子育てを爽快に描き切っているところも本書の面白さ。
子育てとは苦労の連続、でもその中に子どもを持つことへの尊さもある。「子育て」というものをどのように受け止めるのか、その答えは本を読む人に託されている。「子育てってどんな感じ?」「自分も親になれる?」などと気になっている人は、本書でリアルな子育てを面白おかしく疑似体験すれば、自分なりの答えが見つかるかもしれない。
文=吉田あき