目覚めなくても変わらず愛おしい。植物状態になった夫への愛が止まらない妻の日常を描くコミックエッセイ

マンガ

公開日:2022/10/8

推しは目覚めないダンナ様です 低酸素脳症になってからの病院生活 2年目
推しは目覚めないダンナ様です 低酸素脳症になってからの病院生活 2年目』(そら/幻冬舎コミックス)

 もしも、ある日突然、最愛の人が病に倒れたら、どうやって気持ちの整理をつけ、相手と向き合うだろうか。「推しは目覚めないダンナ様です 低酸素脳症になってからの病院生活」シリーズ(そら/幻冬舎コミックス)は、そんなことを考えたくなる実録コミックエッセイ。

 本シリーズに描かれているのは、植物状態になった夫を支え続ける、妻の“ダンナ愛”。1作目『推しは目覚めないダンナ様です 低酸素脳症になってからの病院生活』に続く2作目となる『推しは目覚めないダンナ様です 低酸素脳症になってからの病院生活 2年目』には、病院生活2年目に起きた嬉しい変化や、思わず顔がほころんでしまう日常の出来事が記録されている。

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寝たきりになっても最推し! ダンナ様を愛し続ける年上妻

 6歳差のそらさん夫婦は、今から22年前にバイト先で知り合い、交際。その後同棲を始め、1年半ほど経った頃結婚し、幸せに暮らしていた。

 ところが、2017年のある夜。夫・ぼくちんさんが自宅で就寝中に、突然心肺停止状態になってしまった。原因は突発的に起きたとされる、心室細動だったそう。幸い、一命はとりとめたが、ぼくちんさんは「低酸素脳症」と診断され、植物状態に。

 その後、呼吸は自分でできるようになったものの、自発的に痰や唾液を出すことが困難であったため、喉に穴を開け、器具を装着。閉じたままだった目は数日後に開いたが、見えてはいないようだった。

 1カ月後病状が安定し、救急病院からケアミックス病院へ転院。理学療法士や言語聴覚士など、病院スタッフの力を借りつつ、状態を維持しながら治療やリハビリを行っていくことになった。

 1年目の病院生活では、胃ろうを造設したり、脳外科受診の際に脳が委縮していることや視覚がないことなどを聞かされたりと、受け入れがたい現実に直面したが、一方で痛みには反応があり、右耳は聞こえているという嬉しい発見も得たよう。

 その後ぼくちんさんは、介助を必要とするものの、プリンやゼリー、簡単な介護食などを口から少し食べられるように。本書は2年目の生活を中心に描いており、週に1回リハビリとして昼食にとろみをつけたり小さくカットしたりした常食も食べてくれるようになった、ぼくちんさんの姿も知ることができる。

 その中で、そらさんは意外と食べるものにこだわりを見せる、ぼくちんさんのグルメな一面にびっくり。

推しは目覚めないダンナ様です 低酸素脳症になってからの病院生活 2年目 P29

推しは目覚めないダンナ様です 低酸素脳症になってからの病院生活 2年目 P30

 かつて、一緒によく作っていたサラダを持って行くと、思っていたよりも食が進んだことに驚き、嬉しさも噛みしめた。

推しは目覚めないダンナ様です 低酸素脳症になってからの病院生活 2年目 P60

 食事を単なるリハビリだと捉えず、夫に食べる喜びを味わわせたいと思いながら奮闘するそらさん。その“ダンナ愛”に、涙腺が緩む。

 また、寝たきりになる前にぼくちんさんが意識していたことを守り続けようとする、そらさんの配慮にも心打たれるものがあった。

 それは、ぼくちんさんの体重が増えた時の話。もともと、ぼくちんさんは体型管理にストイックで40kg台をキープしていたそう。しかし、寝たきりになってからは胃ろうからの経管栄養に加え、おやつリハビリや昼食リハビリでも食べ物を口にしていたため、50kgオーバーに。

 それに気づいたそらさんは、病院スタッフに相談。本人が望んでいた体重をキープできるように対処してもらった。

推しは目覚めないダンナ様です 低酸素脳症になってからの病院生活 2年目 P54

推しは目覚めないダンナ様です 低酸素脳症になってからの病院生活 2年目 P55

 こんな風に“ダンナラブ”なそらさんは、病院生活で「かわいい」と思った夫の姿をたくさん写真に収めてもいる。例えば、いつものようにスプーンではなくコップからほうじ茶を飲ませてもらった時には「お口がかわいい」と写真をパシャリ。座っている時に口を開けて眠ってしまった姿もかわいく思い、記念撮影をした。

 こうした“ダンナ愛”は、不思議とぼくちんさんにも伝わっているようで、気持ちを汲んだ反応を見せてくれることも。

 そのひとつが、歯ぎしり対策のマウスピースを装着しようとした時のこと。病院スタッフではなく、妻である自分だとすんなりはめることができ、そらさんは嬉しい気持ちになった。

推しは目覚めないダンナ様です 低酸素脳症になってからの病院生活 2年目 P123

 夫婦の絆というのは、もしかしたら私たちが思っている以上に強いものなのかもしれない。そう思わされるエピソードが本作にはたくさんあり、誰かと共に生きることの意味を改めて考えさせられる。

 病める時も健やかなる時も…というフレーズは結婚式での定番となっているが、本当に「病める時」がパートナーに訪れたら、自分には何ができるのだろう。そうして、心の底から、ひとりの人を愛するということは一体どういうことなのか。その答えが、ここにはあると感じた。

 本作には、交際や結婚にいたるまでの詳しいなれそめや、コロナ禍での病院生活の様子も描かれているので、そちらも要チェック。さまざまな苦しみや葛藤を乗り越え、前を向くそらさんの強さも感じ取りながら、2人の尊い日々を見守ってほしい。

文=古川諭香