斬新!転生した体に2つの魂が同居?『悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~』

マンガ

公開日:2023/1/9

悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~
悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~』(白梅ナズナ:漫画、まきぶろ:原作、紫真依:キャラクターデザイン/一迅社)

 中の人などいない……? いやいるのだ。しかも二人。『悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~』(白梅ナズナ:漫画、まきぶろ:原作、紫真依:キャラクターデザイン/一迅社)は一風変わった悪役令嬢転生ものだ。

 本作のポイントは悪役令嬢の中に二つの魂が宿っていることである。現実世界で死んだエミは異世界の少女に転生する。だが器となったその少女、後にゲームの“悪役令嬢”となるレミリアもまた同じ体の中で同時に意識を取り戻していた。

悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~ P11
©白梅 ナズナ・まきぶろ・紫 真依/一迅社

“転生もの”で転生者が新生児でない場合、転生した人間の人生の途中から魂だけが入れ替わることになる。すると、「元の体の主の魂はどこへいくのか」という素朴な疑問が生じるのだ。今まで本稿のライターはそこまで考えず転生ものを楽しんでいたが、そんなことに気づかされた。そして、実はその魂は消失したり休眠したり成仏したりせず、入れ替わった体の主、元の人格が中にいて見守っていてくれていたら……という本作の展開は、非常に斬新で納得させられた。

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 まきぶろ氏の原作小説を、白梅ナズナ氏が美麗な絵でコミカライズし「次にくるマンガ大賞2022」にもランクインした話題作。中の人が二人いる悪役令嬢の物語を紹介していく。

悪役令嬢の中に転生者ともうひとり? 意思の疎通なき友情ストーリー

 強力な魔力をもち、親にうとまれていた少女、レミリア・ローゼ・グラウプナーは高熱を出して寝込んでいた。水を取りにいこうと立ち上がった彼女は気を失ってしまい、目覚めると、まるでモニターの画面を見るように自分を見ていた。なんと彼女の体にはエミという別の魂が宿り、レミリアはそれを内側から見ることしかできなくなっていたのだ。

 エミは転生者だった。彼女は日本のような元の世界で交通事故にあって命を失い、レミリアとして生まれ変わることに。しかもこの異世界はエミが生前ハマっていたRPG系乙女ゲームの設定と酷似しており、レミリアは、エミがゲームで「おいしいもの食べさせてあったかい布団に寝かせてあげたい」と同情し愛情を向けていた敵キャラの悪役令嬢だったのだ。……というエミの前世の記憶をレミリアはすべて知ることができ、さらに彼女に対するエミの好意や心情も認識する。

悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~ P20
©白梅 ナズナ・まきぶろ・紫 真依/一迅社

悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~ P21
©白梅 ナズナ・まきぶろ・紫 真依/一迅社

 ただしレミリアからエミへコミュニケーションはとれないし、エミはレミリアの意識が同じ体の中にあるとは気づいていない。レミリアができるのは、ただエミを見守ることだけだった。エミは、最初は自分が家族を残して早世したことを悔いていたが、自分が大好きだったレミリアに転生したのだと気づいてからは、彼女を世界を破滅に導く悪役令嬢ではなく、“幸せな女の子”にしようと行動するようになる。具体的には主要キャラたちの心の闇を晴らし、周囲の信頼を勝ち得ていくのだ。これはゲームで本来“ヒロイン”キャラがはたすタスクである。

 こうして孤独で世界を呪うレミリアはこの世界にはいなくなった。エミがレミリアとして充実した人生を歩んでいることを、レミリア本人はまぶしい気持ちで眺めていた。エミはレミリアが幸せになる姿が見たいと思い、レミリアもまたその気持ちが理解できるようになっていたのだ。

悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~ P27
©白梅 ナズナ・まきぶろ・紫 真依/一迅社

悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~ P28
©白梅 ナズナ・まきぶろ・紫 真依/一迅社

 悪役令嬢の破滅を防ごうとがんばるエミの前向きなマインドと優しさが、孤独だったレミリアの氷のように閉ざされた心を溶かしていく。心の救済と友情の物語は読んでいるこちらもあたたかい気持ちになる。二人が直接意思を通じ合わせていないにもかかわらず、共に生きている、それが尊いと感じた。

 だが二人にとってのそんな幸せな時間は壊される、とびきり残酷な形で……。

“主人公”登場で幸せな時間が一転! 悪役令嬢は幸せになれるのか?

 エミが転生しておよそ11年の月日が流れたある日、この世界を救うとされるゲームの“主人公”、つまりプレイヤーが操作するメインヒロインが現れた。この「星の乙女」ことピナ・ブランシュもまた、ゲームの記憶をもつ転生者だった。

悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~ P51
©白梅 ナズナ・まきぶろ・紫 真依/一迅社

 ピナはゲームのシナリオ通りになっていないことに憤り「原作ぶち壊すとかアンチじゃん!」とレミリア(エミ)に敵対心をむき出しにし、彼女をゲーム通りの悪役に仕立て上げ、“断罪”しようとする。はたしてエミとレミリアの運命は――?

 実はここまでがプロローグ。この後いわゆる“タイトル回収”が行われるので、あとはぜひ本編を読んでもらいたい。私は感情を揺さぶられ、胸がすく思いがした。

悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~ P109
©白梅 ナズナ・まきぶろ・紫 真依/一迅社

 このタイトルには「復讐劇」とある。これこそが本作の見所で。復讐は綿密に、着々と進行していくのだ。レミリアは田舎へこもり、村を作り、賞金を稼ぐ冒険者に登録し、天界の神に戦いを挑む。これらはすべて復讐のための下地で、読者の気持ちを盛り上げてくれる。

 現在2巻まで発売中の本作。2巻ではレミリアが、エミが培ってくれた力を駆使して、悪役令嬢全開で邁進する。“エミのレミリア”を道しるべにして、今度はレミリアがエミを幸せにするために、猛烈な勢いで世界を動かしていくのだ。悪役令嬢の中で同居する二人は幸せになれるのか。ぜひ見届けてほしい。

文=古林恭