『ホリミヤ』著者のせつなすぎる幽霊物語! 小説家の少年と記憶をなくしたJKの霊の、奇妙な同居生活
更新日:2023/4/24

若手ホラー作家の少年と女子高校生の霊との、不思議な同居生活を描いたマンガ『あことバンビ』(HERO/朝日新聞出版)の5巻が、4月24日発売された。
作者のHERO氏といえば『堀さんと宮村くん』(スクウェア・エニックス)と『ホリミヤ』(萩原ダイスケ:作画/スクウェア・エニックス)という累計800万部(2023年時点)のヒットシリーズで知られている。後者を原作とするアニメ2期が2023年7月からスタート予定だ。
これらの作品と同様『あことバンビ』には、ゆるく“HERO氏の空気感”としか形容できない独特の雰囲気があり、それが本作の大きな魅力となっている。物語は、高校を中退した18歳の小説家・小鹿悠(バンビ)が、引っ越し先の部屋で女子高校生の霊・アコと出会うことから始まる。
小説家のバンビと霊のアコとの奇妙な共同生活
バンビが「事故物件でもいいから家賃が安い部屋を」という希望で見つけた部屋には、“死んだ幽霊である”と自称するアコが住み着いていた。彼女は霊とは思えないほど現実味があり(触れることもでき、触れられる)、素直で元気な性格だった。ただ死ぬ前の記憶は何もないという。バンビはアコに、人と話すことが苦手そうな内気な部分を感じる。

アコはたいがい、夜になるといきなり現れて朝日と共にいなくなる。そんな奇妙な同居生活のなかでふたりは交流し、お互いを理解していく。ある日、ふたりのもとにプレゼントが届く。それには「亜子がお邪魔していませんか?」というメッセージも添えてあった。
差出人は、バンビのアパートそばの高校に通う女子高校生・山城亜子だった。再度のプレゼントとメッセージアプリのIDが届き、バンビと亜子は連絡を取り合うようになる。彼女は自分の夢にバンビが繰り返し現れ、アコらしき人間の目線で問いかけや返事のようなやりとりをし続けていること、そして「小鹿」という名前の小説家を検索してみたら実在する人だとわかったので連絡したのだと伝えてきた。


アコは亜子の魂なのか、生霊なのか、それとも分裂した同一人物なのか。やがて、ふたりの“あこ”が存在する不思議な状況の理由となる事件が語られる。それを知ったバンビとアコと亜子が起こすアクションが、周囲の人々にさまざまな影響を及ぼしていく。バンビの同級生だった入船、姉の華、担当編集者の比企、さらに亜子の友だちと彼女を守っている人たち……彼らのやりとりや行動、そして感情がていねいに描かれていくのだ。
ふたりの“あこ”のコントラストとせつない関係
最新の5巻では、アコが亜子の家へ遊びに行くことになる。「顔も声もほぼ同じ」でも初対面では反発し合っていた彼女たちは、フランクな間柄になり、お互いの存在を認め合えるようになっている。
アコは自分が自分でいられるようにがんばっていた。ふつうに部屋の外へ出て、人付き合いをし、ときには亜子をいきなり訪ねて複雑な想いを正直に吐露する。一方で亜子はアコが存在するこの状況に対して、今もなお責任を感じている。そのうえ、まっすぐなアコにコンプレックスを抱いていた。

存在が不確かなもののはずなのに明らかに成長していくアコ。人間なのに悩みがつきない慎重な性格の高校生・亜子。つながりは深いが対照的なコントラストを描くふたりの少女の描写が心に刺さってくる。

本作は、ふと思い出すたびにちくっと痛むような「心の傷」を癒していく物語だ。アコと亜子はもちろん、バンビにもある過去の傷。バンビのきょうだいにも、高校の同級生にもそれはある。
そんな彼らがお互いにかかわり、じんわりと幸せになっていく。強く逆境を乗り越えるというよりも、ゆっくりだが確かに一歩ずつ前へ進む。読んでいて気分が晴れやかになっていく作品なのだ。
ふとバンビとアコのことを考えるとちょっと心配になる。バンビはアコをかわいいと思っている。アコもバンビが気になっている。ただふたりは人間と霊というせつない関係なのだ。5巻以降、不穏さを抱えた彼らの同居生活がどのように変わっていくのか。楽しみでもあり不安でもある。見届けないわけにはいかない。
文=古林恭