父親が親権を持てるのは約1割? 「子どもの幸せのため」の陰に隠れた理不尽な事実に、ひとりの男が立ち向かう
公開日:2023/4/25

最近、ふと気づいたことがある。
「シングルマザー」という言葉はよく耳にするが「シングルファザー」はめったに聞かない。そのことに対して、私は今まで疑問を感じることなく生きてきた。
自分自身、6歳で母が再婚するまでシングルマザーの家庭で育ったが、父親の不在に違和感をおぼえることはあっても「自分を育てるのは父ではなく母である」のは当たり前のことだとすりこまれていた。
女性は家事や育児をする存在、男性は仕事をする存在という固定観念が植え付けられていたと言っても良いのかもしれない。
私の両親の離婚理由は父親に非があった。しかしもし母の不倫による離婚だったなら、親権を得たのは父と母、どちらだったのだろう。
『離婚しない男』(大竹玲二/講談社)は男性が主人公でありながら、離婚問題の理不尽さに深く切り込んだ漫画だ。
厚生労働省の令和2年度の人口動態調査によると、父親が子どもの親権(子ども1人ありで夫が全児の親権を行う場合)を得られるのは約13%である。理由は、(たとえ母親に非があるケースでも、)子どもの利益(幸せ)がもっとも大切だとみなされることによるところが大きいという。この調査結果からは「育児は女性がするもの」という古い考えが透けて見える。
本作は、妻・綾香の不倫に気づいた主人公の男性・岡谷渉が、インターネットで父親が親権を得られる割合を知り悪戦苦闘するという物語である。彼は有能な新聞記者だったが、大切な娘である心寧(ここね)の世話をするため、在宅ワークのできる部署に異動を願い出る。
とはいえ渉は決して器用な父親ではない。料理が苦手で家庭を回すのも決して上手だとは言えず、幼い心寧に料理を手伝ってもらう始末だ。しかし諦めることなく娘のために努力する姿を見て不快に感じる人は少ないだろう。
どうしても渉は不倫を続ける綾香と離婚をして、非常に困難だと言われている男親の親権を勝ち取りたいのだ。
妻の綾香は容姿の整った心寧をタレントにしようとしていて、裁判になっても決して親権を譲ることはないだろう。心寧の幸せを第一に考える渉の道程は決して楽なものではない。
大量の不倫のやりとりを入手し証拠はそろったと思った渉だが、法律事務所に行くと弁護士からこのように言われる。
親権者というものは子どもを育てるにあたって能力を求められるのであって
子どものための目線でしか裁量されないんです
子どもを育てる力が勝っているなら不貞があっても関係ない
家庭裁判所の裁判官たちは、いまだに「母性優先の原則」にのっとり、子どもの養育には母親のほうがふさわしいと考えている。
そんな古い考えが今も存在するなんて。驚きと同時に、これは法律という確たるものの中に、男性と女性両方への差別があることを示していると私は感じた。
渉は法律事務所を駆け回る。ところがどの弁護士も目的が男親の親権獲得と聞いたとたん渉の依頼を断る。それほど男親の親権獲得は難しいのだ。
そんななか、ひとりだけ、渉に歩み寄る弁護士がいた。
渉が愛する娘のために親権を得るには何をすればいいのか。その後、彼の行動が事細かに描かれ、時に傷つき苦しみながらも、娘を育てたいという希望を捨てない渉に、男性だけではなく女性も勇気づけられるはずだ。
文=若林理央