缶コーヒーから飛び出した女神が悩みを解決! 教師に恋をした女子高生など、困った人々を助けるハートフルコメディ

マンガ

公開日:2023/5/17

缶コーヒーの女神
缶コーヒーの女神』(根岸岳春/ヒーローズ)

 気分をリフレッシュしたい時に手に取ることも多い、缶コーヒー。そこから、もしも“癒しの女神”が出てきたら、苦みのある人生はどう変わるのか…。

缶コーヒーの女神』(根岸岳春/ヒーローズ)は、そんなユニークな空想が詰め込まれたハートフルコメディだ。本作には、4人の女神が登場。教師との禁断の恋に苦しんだり、偽りの笑顔を張り付けて生きている少女など、悩める人たちに“頼んでもない癒し”を提供する。

■“何の能力も持たない4人の女神”が悩める人々をコミカルに癒す!

 ムトウ、オーレ、モカ、ビトーという4人の女神たちは、缶コーヒーを飲んでくれた人を癒すことが仕事。本作には、重大な秘密を会社の人に知られてしまったサラリーマンや意中の幼馴染に好きな人がいることを知ってしまった少女など、様々な悩みを持つ人たちが登場する。

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 面白いのは、女神たちが“特別な能力”を一切持っていないところ。過去をやり直したり、一瞬で悩みを消し去ったりする力などを持っていないため、女神たちの癒し方は個性豊かだ。

 例えば、無糖に名前がかかっている「ムトウ」という名の女神が行う癒し方は、その名の通り、甘くない。教師との禁断の恋に悩む女子高生の前に現れたムトウは、彼女に優しくマフラーをかけ、味方だと伝えた。だが、次の瞬間、毒舌な本性を見せ、「悲劇のヒロインぶるな」「都合のいい女だった」と辛辣な言葉で女子高生を説教。

缶コーヒーの女神 P9

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 予期せぬ言葉を聞いた女子高生は当然、憤る。だが、ムトウの厳しい言葉や愛のあるビンタが心に刺さり、自分が置かれている状況を客観視し、悲しみの捉え方が変わっていく。

 また、病気で亡くなった父から言われた、「いつも笑っていてくれ」という言葉を歪んで捉えてしまった女子中学生のエピソードも見応えがある。彼女は、いじめられても父の教えを守り、笑顔を崩さない日々を送っていたが、ある日、微糖の缶コーヒーを飲み、女神のビトーに出会って考え方が変わる。

 ビトーができるのは、トランプくらい。ボーイッシュでポーカーフェイスなビトーは女子中学生と、淡々とトランプを楽しんでいたが、その中で、驚きの真実が明かされる。実はビトー、かつて女子中学生の父親に会ったことがあり、知らなかった闘病中だった父の様子を教えてくれたのだ。

 その話を聞く中で女子中学生は父親が遺した言葉に込められた、本当の想いに気づくことができ、ウソの笑顔を張り付けている自分を見つめ直し始める。

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 人前に出るのが苦手で内気なカフェオレのオーレや無邪気なギャル系であるカフェモカのモカなど、本作に登場する缶コーヒーの女神たちは、みな自由奔放で完璧ではない。自分のコンプレックスに悩み、女神同士で傷を癒し合うこともある。

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 だが、女神たちが不完全であるからこそ、彼女たちと出会った人々は自分の人生を違った視点で見つめられるようになり、女神の力に頼らず、自力で問題を解決しようと奮闘するのだ。

 人生を変えるには、まず自分が変わりたいと思い、行動を起こすことが大切――。本作には、そんな深い教訓も詰め込まれているのかもしれない。

 また、特別な能力を持っていないのに誰かを癒す女神たちの奮闘に触れると、何の力もない自分にも誰かの心に寄り添い、相手が感じている人生の苦みを和らげられるのではないかと思わされ、人との向き合い方も変わっていくはず。

 思っていたような甘い展開ではないけれど、それがリアルな人生っぽくて癖になる。本作をそう感じ、読後、無性に缶コーヒーが飲みたくなってしまったのは、きっと筆者だけではないはずだ。

文=古川諭香