通帳をハサミで……⁉ーー日常の小さなトラブルも「凡人すたいる。」にかかれば笑える体験に!

マンガ

公開日:2023/5/25

凡人すたいる。爆盛スペシャルトッピング
凡人すたいる。爆盛りスペシャルトッピング』(まめ/KADOKAWA)

「目のつけどころ、そこ!?」

 大阪出身の私はボケ担当だと自他ともに認めている。ところが、ある作者の漫画を読むときだけツッコミになる。

 その作者とはSNSで人気を集めるまめさんだ。

 日常は「よくあるよね、こういうこと」と「レアな体験をしてしまった……」の両側面を持っているのだが、しかしSNSが身近なものになった現在、多くの人が凡人と呼ばれることを嫌い、あえてレアな体験だけをピックアップしてインターネットに投稿するようになった。

 まめさんはそんな現代と相反する、自己顕示欲を排除した存在だ。自らを「凡人」と呼び日常をギャグテイストの漫画にしている。

advertisement

凡人すたいる。爆盛りスペシャルトッピング』(まめ/KADOKAWA)は「凡人すたいる。」シリーズの3巻であり、作者のまめさんが日常生活で目撃した小さすぎる事件や、ありえないことをシュールな笑いに満ちた漫画にする。また本作は、作者が体験した日常をユーモアたっぷりに描くだけではなく、見どころである描き下ろしのフィクション漫画も収録されている。

 読みながら読者は自己顕示欲からいったん離れ、自分自身に問いかけることになる。

「あれ。凡人ってなんだっけ……」

 そうだ、本書は「凡人」の意味を真っ向からひっくり返す漫画なのだ。それを知った瞬間私たちはまめさんワールドから抜け出せなくなってしまう。

 まめさんは、日常は目を向けなければ素通りしてしまう出来事で満ちていると教えてくれる。

 Zoom会議に参加したはずがなぜかまめさんがふたり映っていて、それを指摘されたときの衝撃、道で話している女性たちを窓から見て勝手にアテレコするまめさんの隠れた趣味、数十年前は苦手だったパクチーをおいしいと感じた瞬間……平凡な日常は視点を変えると新たな出会いに満ちていた。

 上記のように「こういうこと、あるよね」と感じることだけではない。作者は時に突拍子もない行動をとるのだ。

 今使っている通帳を間違えてハサミで切り刻むエピソードはそこに含まれるだろう。

 断捨離モードに入った作者がいらなくなった古い通帳をハサミで切ろうとしていると、意外と固く、頑張っているうちに楽しくなり、いつのまにか今使っている通帳まで切ってしまっていたという、「これは珍しい体験なのでは」と思いつつも、自分に置き換えると「自分もレアな行動をとったことがあるなあ」と思い出がよみがえる。

 独特なタッチの漫画だからとつい忘れそうになるが、作者は読者の経験を振り返るきっかけをも作ってくれているのだ。

 また、本書には描き下ろしのフィクション漫画もある。タイトルは「史上最悪の結婚式」だ。

 主人公はウェディングプランナーの凡田まめ美(ぼんだ・まめみ)で、ウェディングプランナーの華やかなイメージとは異なり、作業着のような服を着た平凡な人物として描写されている。

 それだけで普通ではないのだが、彼女が担当したカップルもまた普通ではなく、新郎には非常に大きな秘密があり、それをけげんに思った新婦は、なぜか結婚式の30分前に新郎の友人のもとを訪ねるのだ。もちろん新婦の来ない控室は大騒ぎである。

「普通」ってなんだっけ。

 笑った後、ふとそんな気持ちになる物語である。これは本編のコミックエッセイ「凡人すたいる。」シリーズにも共通している。

 本編ではまめさんの周囲の状況の変化も楽しめる。シリーズ序盤は幼かったまめさんの子どもたちは成長しており、今はまめさんと高校生の娘のふたり暮らしになっていることも明かされる。

 私たちも無理に特別な存在になろうと苦しまなくてもよいのだ。日常生活のあらゆることに目を向ける。それだけで人生は楽しい。

 そんな前向きな気持ちになれる漫画だ。

文=若林理央