開始20ページで主人公死亡!? 不老不死一家が、殺されまくるがすぐ生き返るバトルアクションコメディ
公開日:2023/6/23

日本のコンビニでバイト生活を送る外国人の青年、テオドール・ベンフィールドのもとに、彼の家族である4人のきょうだいがやってきた。そこからなぜかテオドールの一人暮らしのアパートに全員で住むことに……。
『踊る千年家族』(春日井晶/少年画報社)はつつましく生きる家族の物語かと思った方もいるかもしれない。しかしベンフィールド家には秘密があった。彼らは老いることはなく死なない。さらに殺されても死なないのだ。つまり不老不死のアンデッド・ファミリーだった。
■静かに暮らしたかったテオドールとその家族たち
テオドールは静かに暮らしていたかった。
ベンフィールド家の人間には不老不死の呪いがかけられており、およそ千年、若いまま生きてきた。そんな一家の四男、テオドールは数百年前に実家を出て、日本で平和に暮らしていた。「死なないこと」を周囲に知られないで平穏無事に過ごせてきた秘訣は「静かに生きること」であった。

しかし彼の家族は、不死の体だけではなく非常に個性的で、どうしても目立ってしまう。だから彼は、家族たちと極力かかわらないようにしていたのだ。しかしある事件をきっかけに、全員で暮らすことに……というかテオドールのアパートに転がりこんできた。

では、ベンフィールド一家の面々を紹介していく。
・テオドール
四男、一番の常識人。日本に溶け込んでひっそりと暮らしていた。実は剣術に優れており戦闘力は高い。平和主義だが家族を守るためには先頭に立って戦う。
・ヘイデン
規律に厳しい性格で家族のためなら全てを優先させる長男。家事、コスト管理(家計管理)もしっかりやらなければ気が済まない。弓の達人。
・イヴ
目立つことをいとわず派手好きな長女。一般の人間とかかわることも恐れず日の当たる場所で堂々と生きている。きょうだいの中で最も自由奔放だが、もちろん家族思い。
・ノエル
三男。“ファミリー”のことになると周りが見えなくなり、キレて手が付けられなくなる。どうやら次男との確執があるようだ。
・ライネ
そばかすがチャームポイントのおとなしい次女。しかしオタク趣味に関しては我を忘れるところも。同人誌が大好きないわゆる腐女子。
・アーサー
少年の姿の五男。末っ子だが知的で(きょうだいの中で最も頭がいい可能性が)、最も状況や物事を俯瞰して見られるクールな性格。
この他に連絡が付いていない次男がいる。いずれにしても全員クセがありすぎる。だからこそ集まるとさまざまなことが巻き起こり、大騒ぎに。読んでいるこちらは「おもしろい」のだが、部屋に居座られているテオドールにはたまったものではない。彼は静かな生活を取り戻せるのだろうか。そもそもなぜこうなってしまったのか。「静かに暮らしていたい」とは言っていられない状況が発生していたのである。
■千年の呪いに踊らされる家族の運命は?
物語は、人類の悲願・不老不死の秘密を狙う謎の組織に次女ライネがさらわれたところから始まる。そこで長男ヘイデンは家族全員を集め、その力を合わせて彼女を救おうとする。日本にいるテオドールも例外ではなかった。はじめは嫌々ながらも救出作戦に加わった彼は、敵を倒し見事に妹を救出する。そこでライネは、息も絶え絶え、こう言うのだ。「今すぐ日本へ行って、明日からコミケなの」。

こうして家族全員は日本へ、テオドールの部屋へ向かったのである。そこで五男アーサーはこう告げた「おそらくまた狙われる。バラバラでいるより(全員一緒のほうが)リスク回避ができる」。

かくして数百年ぶりとなる家族水入らずの生活が始まった。ただでさえ外国人が目立つ日本でテオドールの家族たちは騒動を巻き起こす。次女ライネはコミケで目当ての本を買えずにショック死するし、長女イヴは知り合った富豪の相続争いに首をつっこむし、道に迷った三男ノエルは反社会組織にとらわれて、家族全員で派手にドンパチする羽目になってしまい……。

コメディタッチで描かれているものの、ベンフィールド家はあまりにも「死が近すぎる」状態だ。カジュアルに致命傷を負ってしまう。ただ彼らは不死であるため大丈夫なのだが、痛いものは痛いし不快なのは確かなのだ。申し訳ないが思わず笑ってしまうアンデッド・ファミリーのドタバタ生活を狙い、平穏を脅かす真の敵が動いていた。それは最初にライネを誘拐した組織であった。その命を受けた戦闘グループがテオドールたちへ襲い掛かる。死を引き寄せるベンフィールド家は狙われ、さらに死が近づいてくる。

2巻の途中から最新の3巻では一気にシリアスな展開へ。グループとの死闘は佳境になり、“ギフト”というベンフィールド家の人間がもつ特殊能力が明らかになる。そして組織はさらなる行動を起こす。ある日、世界中のSNS上にベンフィールド家のきょうだいたちが死なずに戦う映像がアップされたのだ。そして組織の人間が、アンデッド・ファミリーの前にようやく姿を表す――。
いまだ語られていない多くの秘密と伏線、ド迫力のバトルシーンももちろんグッとくる。ただ何より個性的なベンフィールド家の面々が魅力的に描かれているのがポイントだ。千年の呪いに踊らされる家族の物語、ぜひチェックしてみてほしい。
文=古林恭